本プロジェクトを通じて、企業レベルのボラティティと景気変動の関係と、それに基づいた政策的インプリケーションにつき、一定の所見が得られた。研究成果は、論文”Cyclical Behavior of Firm-level Volatility: An Explanation for the Contrast between the United States and Japan”(国際学術誌より改訂要求、再投稿済み)にまとめられているが、その概要は以下の通りである。 1.個々の企業の実質売上高成長率の時系列上の変動率を計測し、その年ごとの平均値を企業ボラティティと定義すると、企業ボラティリティとGDPの中期的サイクルは、日本では逆相関を示し、アメリカでは順相関を示す。 2.この逆方向の動きは、企業の異質性と、日米間の倒産費用構造の違いによって説明することが出来る。先行研究から読み取れる日本とアメリカの倒産限界費用・固定費用の相対的な関係を参照しつつ、企業がその生産規模を決定する際のリスクと、参入退出の意思決定を内生的に取り扱うモデルを構築することにより、倒産限界費用が相対的に高い日本では、倒産リスクを恐れた企業行動が増え、生産性の低く変動率の高い企業群が景気後退時に淘汰されず市場にとどまるという帰結を得た(アメリカでは逆のことが生じる)。 3.生産の効率性を高めるためには、倒産費用構造への政策介入が重要になる。本論の政策的帰結は、アメリカ型にすれば良いというのではなく、最適な条件は日米の中庸にあり、倒産の限界費用と固定費用は、出来る限り均等化することで効率性が増す、というものである。
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