研究課題/領域番号 |
23730187
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤本 淳一 東京大学, 経済学研究科(研究院), 講師 (00507907)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | マクロ経済学 / 労働サーチ理論 |
研究概要 |
本研究の主目的は労働者の年齢を明示的に扱うライフサイクル・労働サーチ・マッチング・モデルによる雇用・失業問題分析である。本年度は主に下記二論文を通じ理論・応用両面を探求した。 Fujimoto(2010)は理論研究に属する。ランダムマッチング・モデルでは、企業と労働者の交渉が失業者の利益を考慮せず一般に配分は非効率だが、所謂Hosios条件下では効率性が実現される。しかしライフサイクル・労働サーチ・マッチング・モデルでは労働市場が年齢別に区分されていない限り同条件下でも配分は非効率で、そうした区分を外生的に仮定するのは年齢を指定した求人を認めることと同じで年齢差別を禁ずる法規制下では正当化が難しい。Fujimoto(2010)は当該法規制下でも、企業が企業特殊的人的資本への投資額を掲示し労働者と費用を分担する状況では労働者が選好する投資額が年齢別に異なる結果、市場が年齢別に内生的に区分される均衡が生じ効率性が実現されうることを示した。以前よりの取組みのFujimoto(2007)は応用研究に属し、長期の生産性成長率と失業率との間の負の相関の説明を主眼とする。モデルの中核は人的資本の蓄積だが、年齢を明示的に扱うことで年齢と勤続年数別の離職率等につきデータと整合的な結果を得た。両論文とも概ね完成したが引続き改訂を行い学術雑誌掲載に向け努める。Fujimoto(2007):"Implication of General and Specific Productivity Growth in a Labor Search and Matching Model",mimeo.Fujimoto(2010):"Shared Investment and Efficiency in a Life-Cycle Labor Search and Matching Model", mimeo.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既に述べたように、本研究においてはライフサイクル・労働サーチ・マッチング・モデルを理論・応用面双方から探求し、労働者のライフ・サイクル上の雇用・失業や賃金に関する問題を分析していくことを目指している。当該モデルを用いた先行研究は未だそれほど多くないことから、このような研究の重要性は高いものと考えられる。 前述二論文において、モデルの理論・応用両側面につき理解を深めることができ、目標に向け着実に前進している。他方、未だ取り組むべき問題は数多く存在することから、モデルの全体像を解明するという研究目的を達成したと言える段階にはない。本研究の残り期間である平成24年度・25年度において、そうした課題に取り組んでいきたい。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要で述べた二論文に加え、ライフサイクル・労働サーチ・マッチング・モデル下で特に有用な動学的契約アプローチを導入した際に、金利を如何に内生化すべきかにつき理論的に考察したFujimoto(2011)につき、国際学術雑誌への掲載を目指していく。そのために、特にFujimoto(2011)を中心に国内外での学会やセミナーでの論文発表を続け、その反応に基づき適宜改訂を続けると共に、適切な雑誌に投稿していく。 この三論文の進行状況に応じ、新たな応用的研究として、ライフサイクル・労働サーチ・マッチング・モデルが現実のデータに見られるライフサイクル上の雇用・失業や賃金のパターンを定性的・定量的にどれほど説明できるか、データをうまく説明するためにどのような要素を加味することが重要かにつき考察を行いたい。(参考文献)Fujimoto(2011): "Closing Labor Search Models in Contractual Environments", mimeo
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次年度の研究費の使用計画 |
現在、本研究に関連する論文につき複数の海外開催の学会で発表すべく応募中であり、応募が受け入れられた際には渡航旅費や学会参加費を支出する予定である。それ以外にも、論文の発表機会が得られる等、研究遂行に有用な状況があれば随時、国内外の大学・研究機関に出張し、関連分野の研究者と積極的に知的交流を行うことを考えている。平成23年度には震災に起因する講義スケジュールの大幅変更等によりこのような活動をある程度控えざるを得なかったこともあり、研究の円滑な遂行のためにはこうした活動を精力的に行う必要があると考えている。このような活動に伴う旅費が次年度の研究費の大きな割合を占めることが見込まれている。 その他大きな支出としては、こうした国内外への出張に際して研究を円滑に継続できるように、軽量で高性能なノートPCを購入するとともに、当該ノートPCでの利用のために、研究遂行に必要な数学・数値計算ソフトウェア等を購入することを計画している。それ以外には、研究上必要な経済学・数学等に関連する書籍や、プリンタインク等の消耗品を随時購入する。
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