研究課題/領域番号 |
23730189
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
荒渡 良 名古屋大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (20547335)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 政治経済学 / 国債 / 投票 / 社会保障政策 / マルコフ均衡 |
研究概要 |
本年度は国債発行と年金政策に関する世代間の利害対立に注目し,投票によって政策が内生的に決定される政治経済学の視点からモデルの構築・分析に取り組んだ。特に,国債価格が内生的に決定されるような状況に焦点を当て,投票の結果どのような国債政策・年金政策が実施されるのかを分析した。具体的には,閉鎖経済下の世代重複モデルにおいて,所得税率・国債発行量・公共財供給量・年金給付額が投票によって決定されるようなモデルを構築・分析した。当該モデルの意義は以下の2点に大別される。(1) 国債発行を分析した政治経済モデルは幾つかあるが,その殆どが小国開放経済の仮定を置いており,国債価格が一定になっている。そのため,国債に対する需要と供給が国債価格に与える影響を完全に無視している。それに対して,当該モデルは閉鎖経済を仮定しており,国債価格が内生的に決定されるという特徴を持つ。(2) 一部の既存研究では小国開放経済の下で国債価格が内生的に決定されるような政治経済モデルを構築・分析している。しかしながら,それらのモデルでは政府の支出項目として公共財のみを扱っており,世代間の対立が最も激しい年金については分析がなされていない。それに対して,当該モデルでは公共財と共に年金給付額も投票で決定されるという特徴を持つ。 分析の結果,投票に参加する若年層と老年層の人口比や政治的影響力の差異に関わらず,均衡における年金給付額がゼロになることが確認された。これは,閉鎖経済下において全ての国債が自国民によって購入される場合には政府の負債と国民の総貯蓄が一致するため,世代を通じた貸し借りの問題が本質的に発生しないことを意味する。上記の研究結果は現在論文の形にまとめており,完成でき次第,国際学術雑誌に投稿する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の目的であったモデルの構築・分析が完了ため,おおむね順調に進展していると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は今年度に行った分析を基にして,段階的に国債政策の政治経済分析を行う予定である。具体的には,以下の様な方法を予定している。 まず,研究期間の2年目には今年度に構築・分析したモデルを論文にまとめて国際学術雑誌に投稿する。次に,世代内の異質性を無視している本年度に構築・分析したモデルに世代内賃金格差を導入し,世代内賃金格差と国債政策の関係についての分析を行う。具体的には,賃金水準が異なる2つのタイプの主体が,若年期と老年期の2期間生きる様な世代重複モデルを適用する。その下で,全ての主体でProbabilistic votingを行い,国債発行水準・税率及び所得再分配政策のサイズを決定するような状況を描写・分析する。 3年目以降には1年目・2年目に行った研究を国内外の学会・セミナーで報告し,そこで得られたコメントをもとに改訂をした上で,査読付き国際学術雑誌に投稿する。更に,借入制約の存在が投票によって決定される発行量に与える影響について分析を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
設備備品費:最新の政治経済学に関する書籍を購入し,研究を行う上での参考とする予定である。これらの書籍の購入は,本研究を円滑に実施するために必要である。消耗品費:モデルの妥当性を調べる為のOECD・IMFのデータCD-ROMを購入する予定である。旅費及びその他の費用:国内外のセミナー・学会で研究報告を行う予定である。たとえば,8月には東京大学で行われる学会に参加し,研究報告をすることが予定されている。これらの研究報告は,他の研究者からのコメントをもとに論文の改定を行うために必要である。また,今年度に行った研究は論文にまとめて,査読付国際学術雑誌に投稿する予定である。この際に,英文校正を受ける予定である。
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