研究課題/領域番号 |
23730189
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
荒渡 良 名古屋大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (20547335)
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キーワード | 政治経済学 / 国債 / 投票 / 動学モデル / 公共財供給 |
研究概要 |
本年度は借入制約が存在する下での国債発行と公共財供給に関する世代内の利害対立に注目し, 投票によって政策が内生的に決定される政治経済学の視点からモデルの構築・分析に取り組んだ. 具体的には, 所得水準が異なる3つのタイプの主体からなる2期間モデルを考え,借入制約の強さの変化が,投票によって決まる国債発行量,税率及び公共財供給量にどのように影響するのかを明らかにした. 当該モデルの意義は以下の2点に大別される. (1) 異時点間の予算配分を阻む借入制約は国債発行量に強く影響する要因の一つだと考えられる. 先行研究の多くが借入制約を無視した上で国債発行量の分析を行っているのに対して, 本研究では国債政策の動学的政治経済モデルに借入制約を導入して分析を行っているという特徴を持つ. (2) 借入制約の強さは各国で大きく異なり,またデータも容易に入手できる為,本研究の結論は,国債政策に関する実証分野への応用可能性が高いという点で高い意義を持つ. 得られた結果は以下の通りである. 借入制約の強さが十分に強い場合, 借入制約に直面した低所得者と借入制約に直面していない高所得者が中所得者と比べて低い国債発行量と低い公共財供給量を好むようになり, 彼らが好む政策が投票によって選ばれることが確認された. このような均衡のことを本研究ではends-against-the-middle均衡と呼ぶ. 以上から, 借入制約が弱い場合には中所得者が中位投票者になる通常の均衡が, 強い場合にはends-against-the-middle均衡が発生することが確認された. 更に, ends-against-the-middle均衡においては, 国債発行量が効率性の観点から過小となることも併せて確認された.上記の研究結果は論文の形にまとめられ, 査読付の国際学術雑誌に掲載されることが決定している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目の目的であった, 借入制約と国債発行量の関係を分析するモデルの構築・分析が完了したこと, そして研究結果が査読付国債雑誌への掲載が決定したことから, おおむね順調に進展していると自己評価する.
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今後の研究の推進方策 |
今後はこれまでに行った分析を基にして,国債政策の政治経済分析の最終段階に進む予定である. 具体的には, 以下の様な方法を予定している。 まず, 2年目に行った研究は2期間モデルを採用している為に, 世代を通じた国債発行残高の蓄積に関して全く分析ができない。そこで最終年度には, 2年目に構築・分析したモデルを無限期間の世代重複モデルに拡張して分析を行う予定である. 具体的には, 世代内の賃金格差や借入制約の強さの変化が若年世代の貯蓄・借入行動の変化を通じて, 長期均衡上における国債発行量, 税率及び所得再分配度にどのように影響するのかを理論的に明らかにすることを目的とする. その上で, OECD 諸国における国債発行残高の違いを, 賃金格差・借入制約の強さの違いという観点から説明する. また, 3年目には1年目・2年目に行ったこれまでの研究を国内外の学会・セミナーで報告し,そこで得られたコメントをもとに改訂をした上で, 査読付き国際学術雑誌に投稿する.
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次年度の研究費の使用計画 |
設備備品費:最新の政治経済学に関する書籍を購入し, 研究を行う上での参考とする予定である. これらの書籍の購入は, 本研究を円滑に実施するために必要である. 消耗品費:モデルの妥当性を調べる為のOECD・IMFのデータCD-ROMを購入する予定である. 旅費及びその他の費用:国内外のセミナー・学会で研究報告を行う予定である. たとえこれらの研究報告は, 他の研究者からのコメントをもとに論文の改定を行うために必要である. また, 今年度に行った研究は論文にまとめて, 査読付国際学術雑誌に投稿する予定である. この際に, 英文校正を受ける予定である.
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