研究概要 |
平成25年度は借入制約が存在する下での年金と公共財供給に関する世代内・世代間の利害対立に注目し, 投票によって政策が内生的に決定される政治経済学の視点からモデルの構築・分析に取り組んだ. 具体的には, 所得水準が異なる3つのタイプの主体からなる2期間モデルを考え,借入制約の強さの変化が,投票によって決まる賦課方式年金のサイズ,税率及び公共財供給量にどのように影響するのかを明らかにした.当該モデルの意義は次のようにまとめられる.標準的な政治経済学モデルでは,賃金格差の拡大が年金を含む社会保障のサイズを大きくすると予測しているが,いくつかの実証分析はこの予測を支持していない.本研究は借入制約をモデルに導入することで,賃金格差の拡大が年金サイズを大きくする場合と小さくする場合があることを明示的に示しているという特徴を持つ. 得られた主要な結果は以下の通りである.賃金格差の拡大が年金サイズを大きくするか小さくするかは,借入制約の強さと限界効用の弾力性に依存する.借入制約に直面している状況下で税率が上昇すると,低所得者は現在の消費を削らなくてはならないため,再分配の受益者である低所得者が低い税率を好むようになる.この効果は限界効用の弾力性が高いほど大きくなるため,借入制約が十分に強く,限界効用の弾力性が十分に大きければ,賃金格差の拡大が年金サイズを小さくする. 最後に,研究機関全体を通じての研究実績の概要について述べる.本研究課題では「賃金格差」,「借入制約」,「国債発行量」という3つのキーワードに注目し,投票で政策を決定するような政治経済モデルを用いた理論分析を行った.研究の結果,国債発行量を左右するような税率,年金サイズ,公共財供給量などは投票者の構成,とりわけ世代内・世代間賃金格差に強く依存することが示された.
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