本年度は、均衡において、雇用契約が短期・長期であるかという雇用システム、企業特殊的人的資本が行われるかどうか、さらに失業率が同時に決定されるサーチモデルに関する論文を完成した。本年度は、前年度のモデルでは交渉で決まるとした、企業と労働者の賃金契約を明示的に雇用契約に導入し、雇用契約は雇用期間、賃金、退職金を決定するモデルを構築した。まず、企業特殊的人的資本の蓄積を考慮しない基本モデルにおいて、他の企業が長期雇用をオファーし、当該企業は長期雇用をオファーするインセンティブをもつという、企業の雇用契約に関する戦略的補完関係がこのモデルには存在する。よって、複数の定常均衡が存在しうる。これは、複数均衡の発生が企業特殊的人的資本の決定によらず、企業がどのような雇用契約を用いるかという選択によることを意味する。この基本モデルに企業特殊的人的資本の蓄積の有無を導入しても、この戦略的補完性は失われず、複数の定常均衡が存在しうる。この複数均衡は、1990年代まで日本とアメリカの違いに対応すると考えることができる。日本(アメリカ)に対応した均衡では、雇用契約が長期(短期)で、企業特殊的人的資本が多く(少なく)蓄積され、失業率が低い(高い)。これは、日本とアメリカで労働市場をとりまく違いが企業の採用する雇用契約の補完性から生じうることを示唆する。以上の研究結果を岡山大学経済学部ディスカッションペーパーとして英語論文にまとめた。
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