研究課題/領域番号 |
23730196
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
釜賀 浩平 上智大学, 経済学部, 助教 (00453978)
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キーワード | 世代間衡平性 / 厚生主義 / 無限効用流列 / 功利主義 / 公理的分析 / 社会的選択理論 |
研究概要 |
昨年度の研究成果をまとめた論文の(タイトル: Infinite-horizon social evaluation with variable population size)を,11th Meeting of the Society for Social Choice and Welfareにて報告を行った(平成24年8月20日,開催地:ニューデリー).学会にて当該分野の専門家からコメントを頂戴した他,世代間衡平性に関する最新の研究動向として,Claude d'Aspremontによる当該学会での基調講演で言及を受けた.報告論文では,研究課題である「人口が可変である場合の世代間資源配分の優劣評価基準」について公理的分析を行っており,Critical-level utilitarian social welfare relationなど,計6つの優劣評価基準の定式化した他,これら6つの優劣評価基準それぞれについて,優劣評価基準が満たすべきいくつかの望ましい性質(公理)を同時に満たす唯一の優劣評価基準であることを示す定理(公理的特徴付け命題)を与えた. その他の成果として,本研究課題で分析を進めている新しい世代間衡平性の分析枠組みの下敷きとなる既存の枠組みについて,サーベイ論文「世代間正義の公理的分析」を作成し,新たな枠組みを探求する意義を明らかにすべく批判的検討を行った.この論文は『社会科学研究』64巻2号に掲載された.また,既存の枠組みでの研究論文(タイトル:The impossibility of a fixed-step anonymous extension of the catching-up criterion: A re-examination)も作成し,新たな枠組みに応用可能な理論的知見を得た.この論文は『上智大学経済論集』58巻に掲載された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題申請時に予定していた平成24年度の活動として,前年度までに作成した研究成果論文を当該分野の国際学会である11th Meeting of the Society for Social Choice and Welfareにて報告することを挙げていたが,研究実績の概要で記した通り,成果論文の当該学会での報告を予定通り実際に行うことができた.報告論文の内容も,「人口が可変である場合の世代間資源配分の優劣評価」という本研究課題のテーマに対する答えとして,6つの優劣評価基準を提示し,その規範的基礎付けを公理的特徴付け命題によって明らかにするものであり,研究は順調に進展している.学会報告での主たる目的であった,当該分野の専門家からのコメントを得ることについては,実際に十分なコメントを得ることができ,また,研究実績の概要に記した通り,当該分野の専門家による基調講演でも最新の研究動向として言及を受け,この点で,報告論文で得られている成果の重要性を確認することもできた. 学会報告後の平成24年度の予定として,学会でのコメントに基づく報告論文の推敲および最終稿の作成についても,実際に推敲を行っている.コメントをふまえた最終稿の完成については,まだ未完ではあるが完成の目処はついており,おおむね順調に進んでいる. また,報告論文では答えを与えられていない新たな発展的研究課題の模索も平成24年度の活動予定であったが,政治学者との議論を通じて,厚生経済学による世代間衡平性の分析と政治学における立憲主義の議論との接点を探る手がかりを得ることができた.この新たな発展的研究課題については,河野勝氏(早稲田大学・教授)および小島崇氏(早稲田大学・助手)と共同で展望論文(タイトル:世代間の衡平性再考)を作成中である.
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今後の研究の推進方策 |
まず,先述の国際学会報告論文の最終稿の完成を第1に進める.国際学会でのコメントをふまえた推敲を完了させ,国際査読付き雑誌に投稿を行う.その際,論文第1節(イントロダクション)等の主要個所について,英文校正サービスを利用する等して,論文の体裁についても完成度を高めていく予定である.また,国際学会でコンタクトを持った海外の研究者にも最終版の予定稿を送り,そこでのコメントに基づいた推敲も並行して行う予定である. 次に,上述の国際学会で得たコメントによって生じた新たな分析課題についても研究を進める.国際学会で得たコメントの中に,本研究課題で分析を進めている世代間衡平性の新たな分析枠組みにおける「世代の不偏的処遇」の公理による形式的表現のあり方について,既存の分析枠組みにおいて使われてきた公理を援用する妥当性について批判的なコメントを得たが,このコメントについて,新たな枠組みにより適した公理のあり方を模索する研究を進める予定である.コメントのエッセンスは,人口が可変であるという設定の背後にある「政策によっては将来生まれるであろう個人が異なり得る」という可能性を許した枠組みにおける「世代の不偏的処遇」の適切な形式化のあり方を問うものであり,この点に焦点を当てながら,デレク・パーフィット等による人口倫理の研究を参照しつつ研究を進める予定である. 第3に,現在までの達成度において先述した,厚生経済学による世代間衡平性の分析と政治学における立憲主義の議論との接点をさぐる研究論文も完成せる予定である.本論文は,完成後には書籍に収録され,勁草書房より刊行されることが予定されている. 以上の推進予定を軸に,年度末までに研究成果を総括し,更なる研究課題の提案も行っていきたい.
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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