研究概要 |
労働市場の摩擦と労働者の異質性とを考慮した動学的確率的一般均衡(DSGE)枠組みにおける最適金融政策について研究。 金融政策や労働市場変動の分野におけるほとんどの既存文献は、労働者の異質性が考慮されてこなかった。そのため本研究では、政策効果の分析を行う前に、既に定型化された事実をいくつかまとめた。まず労働者を学歴によって、熟練労働者と非熟練労働者との2つのグループに分類し、Gali (1999)とChristiano, et al (2005)とにより開発された手法を用い生産性ショックと金融ショックによる労働市場変動への影響を評価した。その結果、以下2つの目立った知見を得た。1.上記2種類の労働者を比較した場合、生産性ショックは熟練労働者の賃金に大きな影響をもたらしているが、熟練労働者の失業率にはそれほど影響を及ぼしていない。2.金融ショックは、労働者の賃金と失業率との両方に同様の影響を与えている。 次に上述の経験的知見を説明する理論モデルを構築し、このフレームワークに基づき最適金融政策ルールを研究した。具体的には、労働者の異質性と労働市場サーチ摩擦を標準的な金融DSGEモデルに組込んだ。米国のデータに基づきこのモデルをカルビレーションした結果、本研究のモデルは実証検証の結果と合致する予測が可能であることがわかった。このモデルでは、既存文献では説明できないような現象(例えば、ベバリッジ曲線)の予測も可能である。そして、異なる金融政策ルールの有効性を比較した。結果、インフレーション時に強く影響する政策ルールの場合、労働市場(特に非熟練労働者の労働市場)の変動が増幅されることがわかった。一方で、生じた変動に対して影響する政策ルールの場合、常に悪影響が出る結果となった。このルールでは、生じた変動を効果的に緩和することが不可能なだけでなくインフレと失業率の変動を増幅してしまうのである。
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