研究概要 |
最終年度において、本プロジェクトを総括するような研究成果がいくつか公表された。第一に、International Journal of Economic Theory に公刊された論文において、知的財産権保護の実効レベルを、企業・消費者の倫理観の関数として内生的にとらえ、法的保護が経済成長や技術移転に与える影響を明らかにした。その際、市場の質理論を動学的一般均衡モデルに適用することで、市場の質が内生的に決定されるような新しい経済成長モデルを開発した。第二に、Economics Letters に公刊された論文において、企業が生存競争に従事するケースをモデル化し、知的財産権保護の役割を明らかにした。研究開発活動への補助金が経済成長を促進するか否かは、知的財産権保護の水準によって異なることが示された。カリブレーションの手法を用いて、どのような国で補助金の効果がプラス(マイナス)になっているかに関する定量的な分析も行われている (MPRA Paper)。第三に、Review of Economic Dynamics に公刊された論文において、中国の経済発展がアメリカの技術進歩の方向性(スキル偏向型かどうか)に与える影響について、定性・定量両面から分析をした。中国の知的財産権保護とオフショアリングが、重要なファクターであることが示された。 プロジェクト全体を総括して、知的財産保護の水準がイノベーションや経済成長に対して非線形の効果を持ちうることが、定性・定量両面から明らかにされてきた。海外研究者との共同研究も含めて、多くの研究が国際的に定評ある査読付き雑誌に掲載されている(e.g., Review of Economic Dynamics)。本プロジェクトは、近年活発に研究されている知的財産と経済成長に関する定性・定量分析の分野に重要な貢献をもたらしたと言えるだろう。
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