本研究の成果の具体的内容は大きく2点に分けられる。内容の一点目は、失業問題を抱える2つの国から構成される国際経済モデル、具体的には2世代重複モデルを構築したことである。当該モデルにおいては、貨幣の存在理由を明確に描写した。そのため、近年マクロ経済学において頻繁に用いられている貨幣的サーチモデルを用いた。内容の2点目は、モデルにおいて、ある国における金融緩和政策が別の国にどのような影響を与えるか、雇用、そして社会厚生の両面から分析したことである。 当該研究の意義は、雇用状態を明確に描写した開放経済モデルを構築し、その中で政策協調のありかたについて分析したことである。国際経済モデルを用いた既存の政策分析においては、計算の簡単化のため、完全雇用が仮定されている。その非現実的ともいえる仮定を取り除いたことが当該研究の最大の意義といえる。既存の理論においては、自国における金融緩和は、為替レートの減価を通して他国の経済を悪化させるとされてきた。しかしながら、本研究においては、金融緩和が穏やかなものである限り、他国の雇用を改善できるということを示すことができた。この結果は新しいといえる。 本論文の特徴は、モデルの結果がすべて解析的に導かれているという点である。本モデルは2国モデルであり、かつ雇用の決定問題や、貨幣の保有の必要性について明確に描写されているため、既存モデルより複雑なものになっている。しかしながら私は、効用関数を対数関数に限定することで、失業率を両国の貨幣供給量の明示的な関数として導き出すことに成功した。
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