研究概要 |
本研究はアダム・スミスとともに18世紀に経済学を成立させたジェームズ・ステュアートの未公刊草稿類を、経済学史研究の基礎資料として整備する取り組みの一部を成すものである。草稿類のなかで財政論に関わる草稿を抽出し、9点をまとめて明らかにする。 9点の草稿はさらに二つに分けられる。第一はステュアートが主著『経済学原理』(以下『原理』)の財政論部分を書くにあたって作成した草稿である。古代ギリシャの哲学者クセノポンのアテネ財政についての論考に、ステュアートは詳しい評注を書き残していた。この評注は古代人口論、奴隷制と経済、貨幣数量説批判、ダヴナントからの継承、と多岐にわたってステュアートの重要論点を考察する手がかりとなる資料であった。とりわけ重要な貢献であったのは、『原理』が近代の経済を古代の経済と具体的・多方面に対比させて理論形成されていること、そしてクセノポンへの評注を経て『原理』の記述が変えられていることが明らかになったことである。 第二はステュアートの最晩年に属する草稿類である。ステュアートは亡くなる直前に、『原理』の財政論についてかなり長い(6,000ワード超)解説を纏めていた。ステュアート研究に必須の、一級の資料であるにも関わらず、資料所蔵の制約からこれまで活字にもされなければ内容も検討されてこなかったのだった。本研究はこの解説資料を関連書簡とともに提示することができた。ステュアートが21の論点に渡って解説しているその内容はもとより、関連書簡と合わせて読むことで『原理』が同時代の知識人及び専門家にどのように受容されていたかも具体的につかみ取ることができる。 最終年度は、震災年度の研究の遅れをほぼ取り戻すことができ、9点の草稿すべてについてすでにディスカッション・ペーパーとして出しているかあるいは近く出すことができる状態である。
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