研究課題/領域番号 |
23730204
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
結城 剛志 埼玉大学, 経済学部, 准教授 (40552823)
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キーワード | 労働証券論 / 貨幣・信用制度改革論 / 地域通貨 / ユートピア社会主義 / リカードウ派社会主義 |
研究概要 |
「研究の特色は・・・・・・労働評価の格差是正と協同性の回復という<現代的視点>と、労働証券論の史的展開・国際的波及過程という<歴史内在的視点>を併存・交叉させているところにある。」という「研究目的」を踏まえ、当該年度の研究実績を以下の3点に整理する。 ①労働証券論の史的展開・国際的波及過程の理解を深めるための海外一次資料調査を行った。ジョサイア・ウォレンのモダンタイムズ・コミュニティとそこで用いられていた労働証券の実態を調査するため、サフォーク・カウンティの資料館等を訪問した。労働証券の複写物や当時の住人による手稿など貴重な資料を入手することができた。いずれも未公刊資料であり、一部は②に掲げる拙著[2013]に収録・公表した。 ②学術単著『労働証券論の歴史的位相:貨幣と市場をめぐるヴィジョン』(日本評論社、2013年)を公刊した。これによって労働証券論の包括的理解を提示する意義がある。なお、本書の成果の一部は、「貨幣と非貨幣の間」『政治経済学ワークショップ』(開催地:東京大学、2013年3月23日)において発表した。 ③労働証券の取り組みを実践的に支えていた協同組合・労働組合の役割に着目する研究を行った。これによって、貨幣・信用論レベルの考察に限定されていた研究計画のアプローチを、実践主体との関わりで論じる方向へと拡充した。紙幅の制約があるためここではテーマのみの掲載とする。 (論文)「背理の先に何があるのか:反資本主義、労働証券、労働者自主管理」、(研究発表)「国際協同組合年と自主管理型市場社会主義論」、(研究発表)「スウェーデンの協同組合の反独占運動」。また、新聞・雑誌を通じて研究成果を一般に紹介した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
科研費の研究成果公開促進費(学術図書)が採択され、学術単著『労働証券論の歴史的位相:貨幣と市場をめぐるヴィジョン』(日本評論社、2013年)を公刊することができた。これによって、労働証券論の包括的・内在的理解を提示するという本研究計画の目的を概ね達成することができたといってよいだろう。とりわけ、「研究目的」の「③本研究の学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義」にみられる3つの特色のうち、第1の特色である労働証券論の包括的・内在的理解の提示については達成されたといってよい。そして、第2の特色である「経済学・経済学史においては十分包摂することができなかった『地域的に流通する通貨』(労働証券)の特異性を明らかにする。・・・・・・経済学が対象としている理論的世界の範囲や境界」の照射と、第3の特色である「同一価値労働・同一賃金」の理念や「人々の結びつきを制度的に補完する必要性を看取していた」点、「その上で、現代の地域通貨との関連性や不連続性を解明する」という課題についても、その課題の意味を拙著[2013]において示し、研究発表「貨幣と非貨幣の間」(2013)では拙著[2013]の解釈として、それらの関心への射程を解説した。 3年間の研究計画の成果としての実現を予定していた学術単著の公刊を1年前倒しで達成することができた。これを通じて質量ともに十分な成果を上げることができたといえよう。
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今後の研究の推進方策 |
拙著[2013]の成果を踏まえ、単著においてそぎ落としたいくつかの論点を回収しながら、研究計画調書に掲げられている研究目的を発展させるための研究に引き続き取り組む。それらに加えて、拙著[2013]に収録されている研究成果の一部を英文論文として独立させ、英文ジャーナルに投稿する。
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次年度の研究費の使用計画 |
拙著[2013]に収録されている研究成果の一部を英文論文として独立させ、投稿する。そのため、いくつかの予算費目を見直し、英文校閲のための予算を捻出する。
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