研究課題/領域番号 |
23730207
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
本郷 亮 関西学院大学, 経済学部, 准教授 (80382589)
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キーワード | ピグー |
研究概要 |
平成24年度の特筆すべき研究成果としては、次の2点が挙げられる。 第1に、ピグー厚生経済学の最初の体系書である『富と厚生』(Wealth and Welfare, 1912)の邦訳書の出版である(八木紀一郎監訳/本郷亮訳 『ピグー 富と厚生』 名古屋大学出版会, 2012)。その原書は約500頁にも及ぶ大著であるため、これまで邦訳がなかった。原書の出版100周年(すなわちピグー厚生経済学の成立100周年)である2012年に その邦訳書を出版できたことは、今年度の最大の成果であると言える。これにより、ピグー厚生経済学の一翼を担う財政論(理論と政策論)の研究も、むろん大いに促進されると期待できる。特に初期の(すなわち第一次大戦以前の)ピグー財政論の内容は、前述の邦訳書の該当ページを参照することにより、おのずと明らかである。 第2に、同じく厚生経済学の成立100周年を記念して、経済学史学会・全国大会(2012年5月26日 小樽商科大学)において、セッション「ピグー厚生経済学の再検討 ―『富と厚生』出版百周年記念―」(組織者:本郷亮・山崎聡)を開催した。このセッションは、わが国の専門的ピグー研究者5名による個人報告と討論からなる(本郷の個人報告「ピグー厚生経済学とは何か?―『富と厚生』の形成過程―」を含む)。またこのセッションは、これまで同学会では前例のない計200分に及ぶ大規模なものであり、ピグー研究の盛り上がりを強くアピールすることができた。このセッションでは、特に1920年代のピグーの財政論が扱われた。すなわち第一次大戦の膨大な戦費の問題が、1920年代のイギリス財政の最大の問題であったが、そこでのピグーの議論からは、課税および国債発行に関するピグーの政策論のみならず、その背後にある理論的洞察も浮かび上がった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の主な課題は、以下の2つであった。 (1) ピグー財政論の完成形態である『財政の研究』(1928年)と関連論文の精査: 従来の研究では、分配側面(例えば所得税や相続税による累進課税)に関心が集中しがちであったが、このような偏りを打破するため、資源配分や景気変動の側面も十分に重視する。 (2) ピグー財政論の形成・発展過程の解明: ピグーの主著級著作(『富と厚生』1912年, 『厚生経済学』初版1920年、『財政の研究』1928年)の精査・比較を通じて、彼の財政「理論」の展開を全体的に考察する。 以上の2つの課題の達成に必要な文献・資料の読解は、おおむね順調に進んでいる。ただし、特に『厚生経済学』初版(1920)は、原書が約1000頁にも及ぶ大著であり、また邦訳も存在しないため、精読はけっして容易ではない。重要な章・節に絞って精読するなど、工夫をしている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度(平成25年度)の研究課題は、以下の3つの個別問題を再検討することである。これらの問題は、いずれも従来あまり注目されなったものであるが、現代的観点から見て非常に重要である。 (1) 地方自治体の財政: 『財政の研究』(1928年)等における、地方税をめぐる議論、および自治体事業の管理運営論を考察する。これらは従来まったく見落とされてきた研究対象である。 (2) 社会保障論: ピグー厚生経済学は、20世紀初頭の「リベラル・リフォーム」すなわち社会保障制度の整備を重要な時代背景としている。その財政面からの精査・評価を試み、ピグーの分配論をより具体的に明らかにする。 (3) 公債発行と世代間平等: 第一次大戦の戦費調達論なども含めて、ピグーの公債論をさらに深く考察する。特に、世代間の公平性がどのように考慮されていたかに注目したい。 また次年度への若干の繰越金(151円)が発生したが、これは予定していたよりも書籍が安価に購入できたためであり、この繰越金は今年度の書籍の購入費に使用する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
①デスクトップ・パソコン、②タブレット・パソコン、③電子辞書、④デジタルカメラ、⑤書籍、⑥旅費(学会・研究会)、⑦消耗品(プリンター・インク・カートリッジ、プリンター用紙など)、への支出を予定している。
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