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2013 年度 実施状況報告書

ピグー財政論の研究: 理論と政策、および厚生経済学との関係

研究課題

研究課題/領域番号 23730207
研究機関関西学院大学

研究代表者

本郷 亮  関西学院大学, 経済学部, 教授 (80382589)

キーワードピグー / 厚生経済学 / 財政 / 地方財政 / 国債 / 公債
研究概要

平成25年度は、本研究の第3年目の年度だった。当初の研究計画に従い、ピグー『財政の研究』(初版1928年, 第3版1947)を主なテキストとして、次の3項目を個別に研究した。すなわち、1. 地方自治体の財政問題、2. 社会保障論とその財政面、3. 公債発行と世代間平等、である。
『財政の研究』における、(国税以外の)地方税をめぐる議論、および地方自治体による公営事業の財政は、従来まったく見落とされてきた重要な研究対象だが、平成25年度の研究を通じて、ピグーの地方財政論の豊かな内容が次第に明らかになってきた。また従来から知られているように、ピグー厚生経済学体系は20世紀初頭以来の社会保障制度の整備を重要な時代背景として形成された。従来のピグー研究では、もっぱら平等分配論や歳出面ばかりが注目されてきたが、平成25年度の研究を通じて、その歳入面に関するピグーの立場が次第に明らかになってきた。むろん20世紀前半は、2度の世界大戦があったように、国家財政の厳しい時代であったため、歳入面に関する彼の立場には変化も見られ、けっして単純なものではない。特に『財政の研究』の初版(1928年)と第3版(1947年)の間には、予想外に大きな差異があり、その1つの原因はケインズ『一般理論』(1936年)の影響であると考えられる。したがって、上記課題の特に 2.と3.については、今後さらに考察を深めてゆく余地が残っている。しかしながら、各種租税と公債に関する彼の議論を精査するなかで、各時期の彼の立場をある程度まで整理することができた。
その他の実績としては、厚生経済学に関する論文集(平成25年夏にミネルヴァ書房より出版)に論文を寄稿した。またピグー厚生経済学体系(財政論はこの一部である)の研究上、特に重要なピグーの論文の邦訳を2つおこなったが、これはピグー研究の基盤整備の一環である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

研究の進展が計画よりやや遅れている理由は、もっぱら以下の2つに整理される。
第1に、ピグーの財政学上の主著である『財政の研究』(初版1928年, 第3版1947)の英文および内容がかなり難しいものであること。これまでピグー研究が著しく遅れていた大きな理由の1つであり、また彼の著作の邦訳が少ないことの大きな理由の1つは、まさにそこにある。そのため、同書の内容を精査・解読するために、また将来の研究の基盤を整えるために、時間の許す限り、同書を邦訳しながら慎重に研究を進めている(研究の副産物としてのこの邦訳草稿はいずれ単行本として出版する予定である)。私の研究課題はピグー財政論の解明と再評価であるが、これを達成するには、このテーマに関する研究論文を執筆するという方法と、このテーマに関する彼の主著をわかりやすく邦訳し広く紹介するという方法がある。上述の課題の効果的達成にとって、長期的には、この2つの方法の併用が不可欠だろうと認識している。
第2に、20世紀前半には2度の世界大戦が起こったことや、また経済理論上もケインズ『一般理論』(1936年)の登場などの大変化があり、そのため時期によって、ピグーの財政論上の立場にもかなりの変化が見られることである。これはむろん当初からある程度まで予想されたことであったが、ピグーの立場は予想以上にかなり複雑であって、そのことは『財政の研究』の各版の異同に注目すれば明白である。こうした彼の立場の変化(各版の異同の数量はかなり多い)の意味を解読する作業に、予想以上に時間をかけざるをえなかった。
しかしながら、以上のような研究の遅れを今後取り戻すことは十分に可能であり、鋭意努力するつもりである。

今後の研究の推進方策

平成26年度は本研究の最終年度であるから、4年間の研究の全体を、次の4つの作業を通じて総括することをめざす。
(1) 現在生じている研究の遅れを取り戻す。特にピグー『財政の研究』の各版の異同については、それらの一覧を作成し、整理することが当面の課題であり、そのうえで重要なもののみに考察を絞ることにする。
(2) ピグーの諸々の政策論とそれを支えた彼の理論を統合し、ピグー財政論を総括する。従来の研究では、例えば歳入面では、所得税や相続税による累進課税論、すなわちピグーの社会主義的側面に考察対象が過度に集中していたように思われる、また歳出面では、社会保障など、富者から貧者への移転支出に考察対象が過度に集中していたように思われるが、それらの限界を打破することに特に努めたい。加えて、ピグーの理論および政策論は、時期によって変化するので、この点もふまえて総括しなければならない。
(3) 厚生経済学体系と財政論の関係を明らかにする。この作業は具体的には、(2)をふまえ、財政論と他の主要領域(資源配分論・分配論・景気変動論)との関係を究明することを意味するだろう。またこの作業によって、従来のピグー厚生経済学の理解が具体的にどのように変わるのかを明らかにしなければならない。
(4) 本研究の副産物としての『財政の研究』(第3版, 1947年)の邦訳草稿を単行本として2016年に出版する予定である。この邦訳出版の意味は小さくないが、あくまでもこれは副産物である。
現在の方向性としては、以上の(1)~(4)の作業を通じて、ピグー厚生経済学体系(財政論を含む)を「20世紀の社会保障論の古典的議論」として再評価すること、復権させること、が最終的目標である。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2013 その他

すべて 雑誌論文 (2件) 図書 (1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] 「A.C.ピグー「善の問題」(1908年)―邦訳と解題―」2013

    • 著者名/発表者名
      本郷亮
    • 雑誌名

      関西学院大学『経済学論究』

      巻: 第67巻第1号 ページ: 189-205

  • [雑誌論文] 「A.C.ピグー「古典派の定常状態」(1943年)―邦訳と解題―」2013

    • 著者名/発表者名
      本郷亮
    • 雑誌名

      関西学院大学『経済学論究』

      巻: 第67巻第2号 ページ: 177-196

  • [図書] 『創設期の厚生経済学と福祉国家』2013

    • 著者名/発表者名
      西沢保・小峯敦(編著),本郷亮(著)
    • 総ページ数
      372 (139-160)
    • 出版者
      ミネルヴァ書房
  • [備考] 関西学院大学 経済学部 本郷経済学史研究室

    • URL

      http://bcbweb.bai.ne.jp/hongo/

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公開日: 2015-05-28  

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