研究実績の概要 |
2014年度(最終年度)は研究全体を総括し、ピグー財政論を「20世紀イギリス財政論の古典」として再評価すると同時に、厚生経済学を「福祉社会論の古典」として復権させることを課題とした。 今年度の研究成果は、公刊済みのものとしては次の1点である。本郷亮「幸福: 幸福度研究は経済学に革命をもたらすか」(橋本努編 『現代の経済思想』 勁草書房, 2014 年10月, 61-84頁)。これは一見、上記課題とは無関係に見えるが、実際にはそうではない。上記課題の達成には何らかの現代的ツールが不可欠である。私はそのツールの最有力候補として、近年台頭してきた幸福度研究(功利主義の進化形態)に着目した。国民の幸福度の向上を課題とする「幸福の経済学」と、国民の厚生を高めるための政策原論であるピグー厚生経済学とは、その学際性、その背景をなす伝統的功利主義思想などの点で、顕著な共通性をもつ。それゆえ現代的観点からのピグー再評価が可能になる。 今後公刊予定のものとして、以下の2点がある。第1に、今年度内に刊行予定の論文である。その主題は、ピグー財政学の完成版である『財政学』第3版(1947)を、それ以前の版と比較しつつ、その特徴を考察すること。第3版の最大の特徴は「財政と雇用」という編の追加であり、これはケインズへの対応である。この第3版の精査により、「ケインズ革命」を財政論の次元から考察することは世界的にも新しい試みである。 第2に、『財政学』第3版の全訳作業は、全体の6割まで邦訳が完了した。厚生経済学体系を構成する3部作の1つである同書の訳業は、厚生経済学の研究上も、啓蒙上も、非常に有効な手段である。同書は、経済学史上、特に財政学分野の重要古典だが、その邦訳はなく、この欠落を早急に埋めることが、本研究計画上も、最善の方法、かつ今後の研究基盤の整備である。2015年度中に全体の邦訳が完了する予定。
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