金融資産の分析で近年注目を集めているのが、実現ボラティリティの分野である。本研究では、これを多変量に拡張した「実現共分散」を扱う。実現共分散そのものの推定方法に関する研究では、Hayashi and Yoshida (2005)など日本の研究者の取り組みも進んでいる。しかし、実現共分散のモデル化に関する研究は、ようやく緒に就いたばかりである。 本研究の目的は、大きく2つに分けられる。すなわち、(i) Hansenet al. (2010)のRealized GARCHモデルを多変量に拡張して、Realized DCCモデルを考案すること、および(ii) Corsi (2009)のHARモデルを多変量版に拡張することである。 平成23年度に、上記(i)の予備的な研究として、実現ボラティリティ(また実現共分散)の代わりにレンジのデータを用いて、新たなモデルを考案して予測力を検証した。その結果、非常に優れた予測モデルとなっていることがわかったので、この成果を論文にまとめた。 平成23年度後半から24年度前半にかけて、上記(ii)のように拡張を行った。しかし、Golosnoy et al. (2012)が先行して同様の成果を発表してしまった。そこで、彼らのモデルも私の考案したモデルもBEKKモデルと呼ばれる共分散モデルの構造をベースにしていることに注目し、BEKKモデルのパラメータを推定する際の問題点と改善方法に関して、新たなアプローチを提案し、シミュレーション実験を行った。その結果を論文にまとめた。 また、平成24年度前半では、(i)について入手したデータから実現共分散を計算した。 平成24年度後半において、(i)の方針に沿って実現共分散のモデルを新たに考案し、予測力を調べて、その結果を論文にまとめた。
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