研究課題/領域番号 |
23730234
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐々木 啓明 京都大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (70534840)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 内生的成長モデル / 規模効果 / 人口成長率 / 貿易パターン / 1人当たり所得成長率 / 所得格差 / 交易条件 |
研究概要 |
国際貿易は経済成長を促進するのかあるいは阻害するのか.これまで多くの理論研究および実証研究が蓄積されてきた.本研究は,よく知られているようで実は十分に解明されているとは言えないこの分野に理論的に貢献する.本研究では,2国・2部門の規模効果のない内生的成長モデル(Non-Scale Growth model:以後,NSGモデル)を構築し,閉鎖経済から開放経済への移行に伴って2国間の所得格差が拡大するのか縮小するのかを分析した.このような研究は,本研究が初めてであり,他に類を見ない画期的な試みである.分析の結果,以下の結果が得られた. まず,一般的な閉鎖経済のNSGモデルからは,長期的には,人口成長率の高い国のほうが.1人当たり所得成長率が高いという結論が得られる.本研究においても,同様な結果が得られた.つぎに,本研究の基になっているSasaki(2010)からは,すでに貿易を行っている2国を考えると,長期的には,人口成長率の低い国のほうが,1人当たり所得成長率が高いという結論が得られていた.つまり,閉鎖経済から自由貿易へ移行すると,人口成長率と1人当たり所得成長率の関係が逆転するであろうことが予想される.これは,閉鎖経済から自由貿易へ移行することで2国間の所得格差が縮小したり逆転したりすることを示唆する.分析の結果,予想どおり,人口成長率の高い国のほうが,1人当たり所得成長率が低くなった. 以上をまとめると,閉鎖経済においては,人口成長率の高い国のほうが,1人当たり所得成長率が高く,自由貿易へ移行すると,人口成長率の低い国ほうが,1人当たり所得成長率が高くなる.これより,貿易を行うことによって,2国間の所得格差が縮小する可能性があることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は,基本モデルと拡張モデルを構築し,解析的手法を用いた分析を行う予定であった.まず,基本モデルに関しては,構築が完了し,解析的手法に基づく分析をほぼ完了させた.さらに,派生研究として,Sasaki(2011)を国際ジャーナルに掲載した.つぎに,拡張モデルに関しては,モデルの構築を完了し,解析的手法による大部分の分析を終了させることができた.以上の理由より,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,数値シミュレーションを用いて,前年度の解析的手法では明らかとならなかった点を詳細に分析する.その際,前年度に構築した基本モデルと拡張モデルの双方を分析する. 本研究を進める上で問題となるのは,まさにこの数値シミュレーションについてである.本研究では,閉鎖経済から自由貿易への移行を分析する必要がある.この場合,閉鎖経済の状態を記述する微分方程式体系と自由貿易の状態を記述する微分方程式体系が異なるため,それらの転換を考慮しなくてはならない.このような処理を行うためには,新たな知識の習得が必要となる. そのため,平成24年度はこの技術の習得に力を入れる.本研究では,Mathematicaを数値計算ソフトとして用いる.数値計算に必要なコンピュータとソフトはすでに購入したので,それを利用する.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は,当初計画で予定していた数値計算ソフトGAMSは購入しない.その理由は,平成23年度に購入した数値計算ソフトMathematicaを利用することで,数値シミュレーションのかなりの部分が計算可能であることが判明したからである.そこで,GAMSの購入に必要だった費用を,海外の研究会の旅費に回すことにする.残りの費用は,当初計画どおり,国内の学会の旅費,および英語論文の校閲費用などに回すことにする.
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