研究課題/領域番号 |
23730235
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
近藤 絢子 法政大学, 経済学部, 准教授 (20551055)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 社会保障 / 医療経済 / 国際研究者交流 / アメリカ / カナダ |
研究概要 |
平成23年度は主として、1961年の国民皆保険導入の事例分析を進め、皆保険導入によって医療需要が大幅に増加したこと、それに比して医療の供給の伸びはそれほど大きくなかったこと、皆保険導入は死亡率には統計的に有意な影響を与えなかったことなどがわかった。具体的な手法としては、皆保険導入が決定される前の国民健康保険の実施状況に地域差があったことを識別戦略に利用し、都道府県データを用いた差の差推定の応用、ないし市町村データを用いたイベント・スタディを採用した。健康保険の経済分析は経済学において重要な一分野をしめてきたが、近年とくに強制加入の公的健康保険の分析がとりわけ注目をあつめてきた。しかし現在国民皆保険制を敷く多くの国では、導入が漸進的で導入タイミングの内生性の問題への対処が難しく、また導入時点のデータの入手の面でも制約がある。この点で、日本の国民皆保険制度は、1950年代後半から1961年にかけての比較的短期間に一斉に達成されたことや、 都道府県データが比較的よく整備されていることなど、分析に適した利点を多く持ち、国際的に見ても大きな貢献となると期待している。また今回、皆保険の達成が医療需要を大幅に増加させる一方で少なくとも短期的には健康状態に影響を及ぼさなかったという結果を得たが、このことはこれから社会保障制度の整備を進めようという発展途上国にとっては有益な政策資料となりうる。加えて、日本の国民皆保険制度の政策評価を行った先行研究はほとんどなく、我が国の政策立案の参考資料としても意義がある結果が得られたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国民皆保険導入の事例分析の成果を論文の形にとりまとめ、Econometric Society Asian Meetingをはじめとした国際学会や、日本経済学会をはじめとする国内学会で報告した。また、当該論文を英文査読誌に投稿中である。 当初の研究計画では24年度より企業の採用行動を通じた労働市場への影響の分析を行う予定であったが、23年度末よりそのための公的統計の二次利用申請の準備も始めた。また、関連して現代の高齢化に伴う社会保障改革などの政策評価も行いたいと考えており、その準備もはじめている。 総合すると、国民皆保険の直接的効果の分析の方は当初の予定以上に進んでいる一方で、公的統計の二次利用申請の準備が若干遅れているため、全体としてはおおむね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
国民皆保険の直接的効果の分析については、当初の計画通り学術雑誌に掲載することを目指して推敲を重ねる。 同時に今年度より2000年代や1990年代の社会保険制度の改革が、企業の採用行動や個人の労働供給の変化を通じて労働市場へ及ぼした影響を分析するための、公的統計の分析も本格的に開始する予定である。現在、統計法第33条の適用をうけて分析に必要な統計調査の二次利用ができるよう申請作業を進めているところである。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度に交付を受けた研究費が大幅に残っているが、これは研究協力者である重岡仁氏を打ち合わせのために日本に招聘するタイミングが年度をまたいで後ろにずれてしまったためである。平成24年度の早い時期、5月か6月に招聘する予定であり、次年度使用額の大半はこの招聘旅費に充てる予定である。 他、当初より平成24年度に使用する予定だった研究費は、国内や国外の学会発表のための参加費や旅費、研究資料としての書籍購入、必要に応じて打ち合わせのために研究代表者が研究協力者を訪問するか招聘する際の旅費、データ分析の上で必要となった場合の計算機器の買い替えなどで使用する予定である。
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