研究課題/領域番号 |
23730246
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
杉山 泰之 福井県立大学, 経済学部, 講師 (00533605)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際研究者交流 |
研究概要 |
本研究は貿易と環境に関する問題のうち、汚染削減のための財・サービスを提供する環境産業の役割に着目するものである。環境産業の発展については、環境の改善はもちろんのこと、この産業における雇用の拡大を促す効果が期待される。そこで本研究では、環境問題と失業の存在を同時的に考慮した貿易モデルを構築し、その上で貿易政策や環境政策等が失業率に与える影響を、環境産業の拡大・縮小との関係を含めて明らかにする。そして、これらの市場の歪みを是正するための最善な政策の組み合わせや、失業と環境問題を同時的に是正する次善の政策について、体系的に提示することが目的である。 平成23年度については、(1)汚染削減財が輸入される小国開放経済の下で(当該財の国内生産あり)、排出税と汚染削減財の購入もしくは生産に対する補助金の効果について分析を行った。その際、公正賃金による失業の存在を想定することで、雇用効果についても考察している。また、今後の研究につなげるために、(2)公正賃金による失業を伴う国際寡占産業の下で、環境政策の経済効果に関する研究を開始した。 しかしながら、これらの研究の成果はまだ部分的にしか公表できていない。そのため、平成24年度は(1)や(2)の成果を学会や研究会の場で報告するとともに、関連する査読付きジャーナルに投稿するようにしたい。また、(2)については環境産業を明示的に取り入れることで、本研究に適合する形での分析に発展させていきたい。 以上の研究計画を着実に実行することで、これまでの分析では明確にされてこなかった開放経済下における環境産業の雇用効果とそれを通じた経済厚生への影響を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度中に作成し、学会報告等を行った論文としては"Special Economic Zones, Urban Unemployment and Environmental Protection"がある。この論文は垂直的な産業構造を持つ小国開放経済の下で、経済特区の開設と環境政策の効果を分析したものであり、その意味では本研究に関連付けられる。しかしながら、二重経済下での都市失業を想定していること、中間財が排出削減財として投入されるわけではないことなどから、必ずしも環境産業の雇用効果を分析しているとはいえない。 また、研究実績の概要であげた(1)、(2)の研究については、平成23年度中に学会報告などの形で自ら外部に向けて公表することができなかった。その意味で本研究はやや遅れていると言わざるをえない。 理由としてはいくつか考えられるが、一番の反省点は、最初から様々な可能性を探りすぎてしまい、かえって研究が散漫になってしまったことである。平成24年度については基本的な枠組みから再度スタートし、目的意識に沿って着実に論文をまとめ、公表していくことにしたい。
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今後の研究の推進方策 |
現在は、効率賃金仮説のうち公正賃金に基づく失業を想定して、汚染削減財を提供する環境産業の雇用効果や経済厚生への影響を分析している。モデルは垂直的な構造を持つ一般均衡分析の応用であり、かつ、開放経済下での議論であることから、研究の独自性は保たれていると思われる。しかしながら、市場構造の違いを考慮するだけでも分析はかなり複雑になってしまうため、体系的で明確な結論を得ることは容易ではない。 そのためまず、失業のタイプは公正賃金に基づく失業に限定し、市場構造としては完全競争市場から議論を始めることにする。具体的には、(1)小国のケースで排出税や装置購入・装置生産補助金の効果を比較検討し、一つの論文としてまとめる。その上で、(2-a)大国のケースへの拡張、(2-b)不完全競争市場への拡張、という二つの方向に議論を展開することで、分析に幅を持たせる計画である。 さらに、これらの分析が順調に進むようであれば、摩擦的失業など異なる失業要因を想定して再度分析を行い、上記の議論との比較を試みることにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究に必要となる機器類の調達は平成23年度中に8割方行ったが、当初予定していた項目のうち、数値計算ソフトMathematica7が未購入のままである。このソフトは論文の数値計算の際に必要なため、早急に購入する予定である。また、学会や研究会での報告に向けた事前練習などに使うためのプロジェクターの購入も検討している。 その他については、平成23年度と同様に、(1)本研究に関連する経済学分野の図書、学内では購入していない専門誌や海外の研究叢書の購入、(2)指導教官や研究協力者との論文の打ち合わせや資料収集、学会・研究会への出席の際の研究旅費、などに対して研究費の使用を予定している。
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