研究課題/領域番号 |
23730249
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
松浦 寿幸 慶應義塾大学, 産業研究所, 講師 (20456304)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 貿易自由化 / 経済政策 / 海外直接投資 / 生産性 |
研究概要 |
本研究は、国際工程間分業と企業の異質性を考慮した海外直接投資モデルの構築、および企業マイクロデータを用いた実証分析により、途上国向け直接投資の決定要因を明らかにする。途上国向けの直接投資では、自国と外国の間の要素価格差や貿易自由化による貿易コストの変化が大きな影響をもたらすと考えられる。また、近年の研究では、企業間の生産性格差により、同一産業の企業であっても、国際化から得られる便益が異なることが指摘されている。本研究では、企業の異質性に注目して、近年増加する途上国向け直接投資の決定要因が、企業間でどのように異なるかを分析し、今後の日本企業の生産・立地パターン、および国内経済への影響を展望する。本年度は、海外直接投資に関する企業レベルデータによる研究のサーベイを取り纏め、また、貿易自由化が海外直接投資パターンに及ぼす影響についての理論的整理を行なった。海外直接投資に関する企業レベルデータによる研究は1990年代後半より増加しているが、近年になり、生産性との関連についての理解が深まっている。本研究は、その文脈の中では、貿易自由化が水平的直接投資と垂直的直接投資に与えるインパクトを扱うものとして理解できる。貿易自由化が海外直接投資パターンに及ぼす影響についての理論分析としては、関税率の低下が、水平的直接投資と垂直的直接投資にいかなる影響を及ぼすかを分析した。特に、本研究では、直接投資の生産性カットオフに及ぼす影響に注目しており、水平的な投資と垂直的な投資で対照的な結果が得られることを示した。また、実証分析については、データベースの整備を開始し、貿易コストの推計と海外直接投資の決定要因に関する分析を開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究のサーベイと理論的な整理が完了し、それぞれ雑誌原稿、あるいはディスカッションペーパーとしてとりまとめている。実証分析については、初年度は関税率などの貿易コストのデータ整備を中心に進めることとなっており、こちらもデータ蓄積は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、モデルの構築と並行して、3種類のデータ、すなわち(1)貿易コスト指標、(2)財務データによる企業データベース、(3)個票データによる企業データベース、を開発しながら、分析を進める。平成24年度は、モデルを完成させ、大学の研究会などで報告し、コメントをもらうほか、研究補助者の協力の下、(2)日系多国籍企業の財務データによるデータベースの構築を行う。なお、使用するデータは、日経NEEDS、および東洋経済新報社「海外進出企業総覧」を予定しており、1994~2002年までの電気機械製造業のデータは、すでに過去に実施した研究で収集済みであるので、今回は2003~2006年への拡張を行う。また、自動車産業についてもデータを収集する。さらに、平成23年度に推計した貿易コスト指標を用いて、上記の東洋経済「海外進出企業総覧」データによるパイロット・スタディーを実施する。同時に、より詳細な分析用のデータソースとして、経済産業省「企業活動基本調査」「海外事業活動基本調査」の個票データの利用についても検討、ならびに申請手続きを行う((3))。このデータを利用すると、現地法人ごとに販売・調達先の情報が得られるため、各現地法人を、現地販売獲得を目的とするもの、国際分業を目的とするものに区分することができるようになる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本格的な実証分析の開始に備えて、分析用のPCと統計分析ソフトウェアーを購入する。また、昨年度から作業を始めている貿易コスト指標の推計のため、研究補助者の雇用も必要となる。貿易自由化と直接投資に関する理論モデルを中心とするディスカッションペーパーについては、引き続き学内外の学会や研究会などで報告しコメントを得て、精緻化を進めていく。そのため、学会参加(ベルギー・シンガポール)のための旅費が必要となる。 昨年度は、共著者との打ち合わせのため、タイ・ベトナムに出張を予定していたが、秋口からの大洪水により出張を延期せざるを得なかった。そのため、残金が発生した。今年度は、夏頃に、改めてタイ・ベトナムへの出張を計画している。
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