本研究は、国際工程間分業と企業の異質性を考慮した海外直接投資モデルの構築、および企業マイクロデータを用いた実証分析により、途上国向け直接投資の決定要因を明らかにする。途上国向けの直接投資では、自国と外国の間の要素価格差や貿易自由化による貿易コストの変化が大きな影響をもたらすと考えられる。また、近年の研究では、企業間の生産性格差により、同一産業の企業であっても、国際化から得られる便益が異なることが指摘されている。本研究では、企業の異質性に注目して、近年増加する途上国向け直接投資の決定要因が、企業間でどのように異なるかを分析し、今後の日本企業の生産・立地パターン、および国内経済への影響を展望する。 本年度は、分析結果を学会等で報告するとともに、実証分析のさらなる精緻化に取り組んだ。具体的には、生産性の推計手法を変更した場合でも類似の結果がえらえるかどうか、IIA(無関係な選択肢からの独立)の仮定を緩めた場合の推定、あるいは複数の国・地域に進出している企業を除いた場合など、さまざまなケースで主要な結果が変わらないか頑健性のチェックを行った。さらに、海外直接投資の目的に関するアンケート項目などを利用して、直接投資のタイプ分けについても、より複雑な組み合わせを考慮した分析を行い、精緻化を図った。いずれの場合でも、理論仮説のとおり、工程間分業を伴うFDIで、生産性カットオフの低下が著しいことがわかった。
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