研究課題/領域番号 |
23730250
|
研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
小西 祥文 上智大学, 国際教養学部, 助教 (40597655)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 水質取引 / 空間的汚染価格 / 兌換率 / 非線形 |
研究概要 |
平成23年度には、研究計画の第一~第三段階の理論的研究をほぼ完成させる事が出来た。第一に、二つ以上の支流が存在し非便益関数が非線形であるような一般的な水系に於ける費用対便益問題を定義し、その最適解を達成することの出来るHung-Shaw型とFarrow et al.型の費用対効果問題が存在することを証明した。次に、TRSモデル・DTRSモデルの市場均衡を再定義した結果、TRSモデルは二つ以上の支流が存在する場合、DTRSモデルは非便益関数が非線形である場合に、市場均衡が費用対効果問題の最適解を必ずしも達成しない事を理論的に証明した。第三に、米国EPAによって開発されたNational Water Pollution Control Assessment Modelをベースとして、三つの汚染企業が河川に存在するケースを仮定し、比較的単純化された数値モデルを構築した。解析ソフトMatlabを利用して、同数値モデルに基づいたシミュレーションを行ったところ、TRSモデル・DTRSモデルそれぞれの問題点がより明らかになった。具体的には、TRSモデルがパレート改善的な水質取引を阻害する傾向がある一方、DTRSは反対にパレート非改善的な水質取引を推奨してしまう傾向がある事、これらの数値結果の特性が、汚染企業の空間上の分布に大きく依存する事、等が分かった。更に、排出権の初期配分量(分布は所与と仮定)を変動させた分析を行った結果、誤った初期配分量を分配する事によって生じる経済的損失の方が、TRSモデルないしDTRSモデルの市場均衡における内生的な空間的汚染価格が非効率である事から生じる経済的損失よりも遥かに大きい事が分かった。これらの結果を纏めた論文は、京都大学環境経済学セミナー、ミネソタ大学環境経済学セミナー、東アジア環境資源経済学会の第二回大会にて口頭発表を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した「研究実施計画」では、上述の第一~第三段階までの研究を終了させる計画であったが、その計画通りに理論的結果・数値モデルのシミュレーション結果を出す事が出来た。また、これまでの結果を纏めた論文に対しては、メリーランド大学Scott Farrow教授、テネシー大学Jacob LaRiviere助教授より良いコメントを頂いている。その意味で、計画通り(あるいは計画以上に)順調に進んでいると言える。その一方で、第四段階の実証研究に向けた準備や、本研究を手伝える能力を持った大学院生の選定に若干遅れが出ており、平成24年度の計画達成に若干の遅れが予想されることから、「概ね順調に進展している」という自己評価とさせて頂いた。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度(平成24年度)には、第四段階の実証研究に向けた準備を行う。実証研究では、上記数理モデルのパラメーターを、実在の水系のデータを使って、カリブレーション・推計する。過去に欧米で行われた類似の実証研究では、準備段階からも含めて数年に渡ることが普通であり、研究の質を下げないためにも、本研究の実証部分には数年掛けることが望ましいと考える。したがって、平成24年度は、実証研究を成功させるための準備期間とする予定である。具体的には、日本・米国において、以下の条件を満たす水系、及び協力可能な自然科学者を選別する:(1)水質問題が顕著である、(2)二つ以上の支流が存在する、(3)非線形な非便益関数が予測される、(4)自然科学者による水質問題の既存研究が存在し、本研究の経済学的なモデルとの融合が比較的容易である、(5)比較的大きな水系であり、水質取引の導入による経済的メリットが大きい。平成23年度中に、研究協力者であるJay Coggins教授と以上の点に関して議論を進めた結果、ミネソタ州南部に流れるミネソタ川に新たに導入されたTotal Maximum Daily Load (TMDL) 規制を研究対象とするのが良いのではないかとの結論を得た。したがって、次年度にはミネソタを訪問し、同流域の水質汚染問題が、実証研究の対象として相応しいか否かの評価をする為の実地調査を行う予定である。また、ミネソタ大学の大学院生を雇い、データの入手・整備を手伝って貰う。日本でも類似の実証研究の可能性を探りたいと考えており、日本の水質取引の研究者とも意見交換をしていきたいと考えている。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費約140万円を、以下のように使用する予定である。(1)ミネソタ川流域の汚染問題に関する実地調査・データ収集の為にミネソタ大学の大学院生を研究助手として雇う予定である。その為の謝金として約40万円(8週間分給与)を支払う予定としている。(2)平成23年夏に予定されていたミネソタ訪問を、交付決定遅延の為に予定通り行う事が出来なかった為、その分、次年度にミネソタを長期訪問し、研究協力者であるJay Coggins 准教授や研究助手と綿密な打ち合わせ・議論を行うと同時に、ミネソタ川の汚染問題に関する実地調査を行う予定である。そのための渡航費・滞在費に約40万円を使用する予定である。(3)ミネソタからの帰途、ハワイ大学の環境経済学者である樽井礼准教授を意見交換・発表のために訪問する事を計画しており、滞在費用として約15万円を計上する予定である。(4)まだ具体的な学会は決定していないが、学会発表用の旅行費・滞在費として約20万円を使用する。(5)最後に、データ収集の際に必要となる未確定の予備的経費(データ・ライセンス、ソフトウェア、助手の経費、資料代、助手のPC、助手の雇用延長等)として、25万円ほど必要になるのでは無いかと考えている。
|