前年度までの研究によって、①二つ以上の支流が存在し、非便益関数が非線形であるような水系では、TRS型の水質取引政策・DTRS型の水質取引政策の各市場均衡が、最適解を達成し得ない事、②TRS型の水質取引政策が効率的な水質取引を阻害する傾向がある一方、DTRS型の水質取引政策では、反対に非効率的な水質取引を誘引してしまう傾向がある事、③非効率性の度合いが、汚染企業の地理的分布に大きく依存する事、等が理論的に明らかにされた。プロジェクトの最終段階である実証研究では、このような理論・数値シミュレーションの予測を、現実の河川流域に於いて、正確に評価する事を目的としていた。最終年度は、その為の準備期間として位置づけていた。 最終年度の研究成果は以下の通りである。第一に、研究協力者とのプレ調査の結果、米国ミネソタ川のリン汚染TMDL規制を実証研究対象水域として選別した。同流域では、リン汚染問題が顕著であるばかりでなく、JTUという「汚染通貨」を利用した画期的な水質取引政策が既に実施されている点から、実証研究の対象として最適である事が明らかとなった。第二に、ミネソタ大学の大学院生を雇用し、研究協力者と共に、約9ヶ月の調査期間を経て、①ミネソタ川TMDL規制に関する資料の収集・整備、②規制当局であるミネソタ汚染規制局(MPCA)との情報共有ネットワークの確立、③規制対象となる44の汚染者の汚染削減費用関連のデータ収集を行った。最終的には、44汚染者の詳細な汚染データ・情報を入手し、各汚染者の限界費用関数を推定するところまで終了させ、予定通り、実証研究への準備を終える事が出来た。一方で、日本国内における水質取引の可能性を探る為、大阪大学の研究者と交流を重ね、流動水質モデルと社会経済モデルの統合による新たな水環境施策評価手法の開発を目指した研究をスタートさせる事となった。
|