本研究の目的は、2国間FTAの形成が世界全体の貿易の自由化を促進するかを検討することである。これまでに、3国3市場モデルを用いて、市場規模が同じか似通った2国間でFTAが形成された場合、(1)域外国の市場規模が相対的に小さい場合は重複的なFTAの形成を通じて世界全体の貿易の自由化が達成されること、(2)域外国の市場規模が同程度か相対的に大きい場合は既存FTAを拡大することで貿易の自由化が促進されることを、市場規模に関する想定の異なる2本の論文でそれぞれ示した。2013年度は、これらの諸結果を包摂するモデルを構築し、1本の論文にまとめることに取り組んだ(投稿準備中)。 また、“Effect of Bilateral FTA on Cost-Reducing R&D Activity in a Developing Country”では、2つの先進国と1つの発展途上国からなる3国3市場モデルを用いて、先進国同士の2国間FTAが、劣った生産技術を有している発展途上国企業の費用削減的R&D投資活動に与える影響を考察した。主として、先進国間のFTAは発展途上国におけるR&D活動を促進する場合もあれば阻害する場合もあること、また発展途上国企業のR&D投資を促進した場合であっても当該国の経済厚生を悪化させる可能性があるという結論を得た。現在、本論文を拡張し、先進国間FTAの形成が貿易の自由化を促進するかを、既存FTAの拡大と重複的なFTAの形成について検討中である。 加えて、いわゆるBrander-Spencer Modelを用いて、輸出国の企業数に関する非対称性が2国間FTAの形成に与える影響を検討した。主として、相対的に企業数の多い輸出国と輸入国の間のFTAは、輸入国政府が自国企業に何らかの補助金政策を行っている場合のみ形成されるとの結論を得た。
|