研究課題/領域番号 |
23730253
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
都丸 善央 中京大学, 経済学部, 講師 (30453971)
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キーワード | 理論研究 |
研究概要 |
本研究は、国家貿易企業(STEs)という特殊な企業体が持つ貿易政策としての効果を債権とすることを目指す。ここでのSTEsとは財の国内調達や貿易管理を一手に引き受ける存在である。つまり、その存在自体が貿易政策的な効果を持つゆえ、現代のWTOを中心として進められている世界規模の貿易自由化に反した存在だと言える。そうした世界の潮流に反する存在でありながら、なぜ各国はSTEsを保有し続けるのか。STEsの貿易政策的効果を分析したうえで、その問題に解決を与えようというのが本研究の主要な目的である。 STEsはその設立にあたりその設立目的をWTOに通達する義務がある。特に、発展途上国のような規模の小さいく国々におけるSTEs設立の目的として挙げられる主なものは消費価格の安定などである。つまり、消費者の利益のために設立しているとも解釈できる。しかし、消費者の利益のためであるならば自由貿易を通じてより安い価格の財を入手すれば消費者余剰も高められるはずであるから、STEsによって貿易介入する必要はないはずである。すなわち、政府がSTEsに期待する真の目的は異なっている可能性があるのである。 本研究はその点を掘り下げて考えている。STEsはWTOに通達している通り消費者余剰を最大化する主体である一方、政府は国内の生産者の利益に偏りのある目的を持っているものとして分析を行った。その結果、STEsを持つ輸入小国の供給の価格弾力性が需要の価格弾力性よりも相対的に大きい場合、STEsは自由貿易よりも政府の偏りのある目的を高めることができるということが示された。また、最適関税政策と比べてもやはりSTEsの方がより高い政府の目的を与えることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度の状況報告に記したように、平成23年度に作成していた論文に致命的な欠陥がありそれを修正するのに1年を費やしてしまった。それでも、その欠陥は完全に修正され、若干の記述を検討したのちに国際学術誌に論文を投稿する段階に来ている。また、この作業と並行して、申請した研究目的・研究遂行方法に則りその論文の拡張作業に入っている。
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今後の研究の推進方策 |
ほぼ完成を見た論文を9月にイタリアのバーリで開催される国際コンファレンスで報告をし、そこでのコメントをもとに修正を行った後、国際学術誌に投稿をする予定である。さらに、その論文と並行して行っている研究を以下のように進める予定である。まず、STEsの民営化についての分析を行う。オーストラリアの代表的なSTEsであるAWBが近年民営化された。このようなことが生じるのはなぜか。これを理論的に考える。民営化を考察する手法としては混合寡占理論(公企業と私企業が競争する寡占市場に関する理論)を応用することを考える。混合寡占理論では公企業の民営化を「社会的余剰最大化主体から利潤最大化主体への変化」と解釈する。本研究でも、このようにSTEsの民営化をSTEsの目的の変化としてとらえて分析を図る。ただ、平成24年度の研究によって単純に利潤最大化企業への変化と考えるのには理論的な問題があることが確認できた。これをどう克服するかを考えるのが平成25年度の研究課題の一つになる。 次に、STEsが持つ職能の違いがもたらす経済効果を考える。STEsの中には貿易にのみ従事するものや国内調達のみに従事するものなど様々なタイプがある。これらの貿易政策効果を平成24年度までに蓄積してきた分析手法をもとに再検討を図る。さらに、平成25年度に妥当な民営化の分析手法が見い出せた場合、それを応用して民営化分析まで踏み込んで考察したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
現在までの達成度の項目に記したように、論文の致命的な欠陥を修復するために平成24年度の1年間を費やしてしまった。そのため、予定していた国際学会報告を行うことができず、次年度使用額328,708円が発生してしまった。そこで、平成24年度に行えなかった国際学会報告を平成25年度イタリア・バーリで開催される国際コンファレンスでの報告に代替することとし、そのための渡航費および滞在費として328,708円を利用することにした。
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