本研究は国家貿易企業(STEs)という特殊な企業組織が関与する貿易について検討を図った。ここで言っているSTEsというのは財(とりわけ、農産物)の国内調達や貿易管理に携わる主体全般のことを指す。STEsが貿易に関与する以上、その存在自体が貿易政策の一環であるものであり、世界規模の貿易自由化という現代の潮流に反した存在であるのは間違いない。では、なぜそのような存在がいまだに存在し得るのか。本研究はその問題に対する解答を与えることが目的であった。 そもそも、WTOメンバーはSTEsの設立・維持の目的をWTOに通達する義務を持つ。報告されている目的の主な例として、発展途上国のような規模の小さい国であれば低い水準で安定した消費者価格の下での財供給などが挙げられる。つまり、消費者の利益にかなう政策の一環としてSTEsを利用しているものと解釈できる。しかしながら、自由貿易を通じてより安い価格で財を輸入すれば消費者余剰は高まるわけであるから、STEsの存在と掲げる目的とは矛盾があるように思われる。この矛盾を解決する1つの案として、本研究は商国政府の目的がSTEs設立・維持の目的と異なる可能性を探った。 具体的には、STEsが消費者余剰を最大化するように輸入量をコントロールする一方、小国政府は別の目的関数(生産者余剰に偏りのある社会的余剰)を最大化するように国内生産価格をコントロールする状況を考えた。その結果、輸入小国の供給の価格弾力性が需要の価格弾力性よりも相対的に大きい場合には、自由貿易よりもSTEsという貿易政策の方が政府の目的関数の値をより高めることが示された。さらに、最適関税政策と比べてもSTEsの方が政府にとっては望ましいということも合わせて示された。
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