所得効果,競争促進効果,企業淘汰効果を含む独占的競争の一般均衡理論を開発した。都市間の輸送費用や都市内の通勤費用といった空間的摩擦を導入することにより,多地域空間経済モデルを構築し,都市規模の決定要因となる集積力と分散力を理論的に明らかにした。また,輸送費用と通勤費用の変化が,各都市の人口,地代,賃金,マークアップ率,生産性,効用に与える影響を定性的に分析した。さらに,米国都市圏データを用いて,多地域空間経済モデルを構造推定し,カウンターファクチュアル分析を行った。輸送費用や通勤費用が存在する実際の均衡と,それらを捨象した仮想的な均衡をそれぞれ定量化することにより,ヒトやモノの移動における空間的摩擦の役割を定量的に明らかにした。 本研究で開発した新しい分析枠組みは,独占的競争の一般均衡理論において中心的な役割を果たしてきたDixit and Stiglitz (1977)の所得効果,Krugman (1979)の競争促進効果,Melitz (2003)の企業淘汰効果を同時に考慮しつつ,既存の貿易理論と都市経済学を統合しており,理論的に重要である。また,本研究の構造推定は,Anderson and van Wincoop (2003)の人口を所与としたときの多地域モデルの構造推定を,人口移動がある場合へ拡張しており,実証的にも重要である。さらに,カウンターファクチュアル分析により,輸送費用や通勤費用の変化が,各都市の人口,地代,賃金,マークアップ率,生産性,効用に与える影響を定量化できるため,本研究は政策的な観点からも意義がある。
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