研究課題/領域番号 |
23730255
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
小西 萌 早稲田大学, 高等研究所, 助教 (30589578)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 人口高齢化 / 引退 / 健康投資行動 / 健康不平等 |
研究概要 |
平成23年度には、研究計画の研究をほぼ完成させる事が出来た。第一には、「健康と退職に関する家計調査(HRS)」(国立社会保障人口問題研究所)のパネルデータを統計分析可能なデータ・フォーマットに移行し整備した。第二には、これらのデータを基づいて、退職が人々の喫煙、飲酒、適度な運動の三つの健康投資行動に与える影響を分析した。退職の内生性を考慮し、(1) Fuzzy Regression-Discontinuityという統計手法を用いて退職の短期的影響を、(2) 外生的な日本の年金支給開始年齢の変化を操作変数(IV)として使用する事で、退職の長期的な影響を推定した。その結果、退職者は、そうでない人と比べて、一日当りの喫煙本数を0.4本減少させる事、定期的な運動の頻度を大きく増やす事が明らかになった。また、男性と女性によって退職の影響が大きく異なる事が分かった。例えば、退職した男性が一日当たりの喫煙本数を7.5-9.3本減少させるのに対し、女性の方は、飲酒の確率を大きく減少させる事が分かった。さらに、退職による運動頻度の増加は、女性にとっては短期的な影響に留まり、男性には長期的な影響が見られた。これらの結果を巡って、WIASディスカッションペーパーを完成させた。本研究は日本経済学学会で口頭発表を行う予定である。第三には、所得と健康の分布に関する研究の理論部分と分析手法につて研究しながら、「国民生活基礎調査(CSLCJ)」のデータ使用権利を厚生労働省に申請した。平成23年4月に審査に順調に通った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した「研究実施計画」では、上述の第一と第二部分の研究を終了させる計画であったが、その計画通りに実証研究結果を出す事が出来た。これまでの結果を纏めた論文を完成させて、日本経済学学会で発表する事になった。また、第三部分のデータ申請は厚生労働省の審査に通ったので、データを入手する事が出来た。その意味では、計画通り順調に進んでいると言える。その一方で、データ申請進行のプロセスは予想以上に遅れが出ており、平成24年度の計画達成に若干の遅れが予想されることから、「概ね順調に進展している」という自己評価とさせて頂いた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度には、研究計画の第三部分の「国民生活基礎調査(CSLCJ)」のデータ分析に向けた準備を行う。データセットを入手してから、統計分析可能なデータ・フォーマットに移行し整備する一方、所得と健康の分布に関する簡単な記述的統計分析をまず行う。所得と健康の横断的・縦断的な相関・因果関係に関する本格的な分析に着手する予定である。具体的には、unconditional quantile regression (UQR)という統計手法を利用して、年齢階層ごとの健康の分布が、所得分布の変動にどのように依存しているかを分析する予定である。同統計手法は、説明変数の分布が被説明変数の分布に与える影響を統計的に推定するための統計手法であり、近年欧米で大きく注目されつつある。同様に、「中国における健康と栄養に関する家計調査(CHNS)」(中国中央統計局・ノースキャロライナ大学)のデータを分析し、日本と中国に於ける所得分布・医療制度・生活習慣に関する比較研究を行う予定である。日本の社会保障と医療背景の専門家である早稲田大学野口晴子教授、経済学理論モデルの専門家である上智大学の小西祥文助教、UQRという統計手法の専門家であるアメリカのニューハンプシャー大学の王楽助教、医療経済の専門家である名古屋大学の中村さやか准教授とも意見交換をした上で、本研究の結果を纏めた論文を学術雑誌に投稿する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度には、実証研究の為に、参考になる書籍と学術雑誌や分析用の統計ソフトウェアなどを購入する予定である。データ整理に手伝える学生を雇う人事費もかかる。また、研究計画の一部として国内と海外の学会で論文を発表する事に研究費は必要である。最後に、英語の学術雑誌に投稿するので、英語の翻訳費と投稿費もかかると予測している。
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