最終年度の研究では、(1)前年度に得られた実証研究の結果の精査を行うと同時に、(2)「国民生活基礎調査」に基づいた実証研究を行った。 (1)退職後と退職前で、人々の健康投資行動がどのように変化させるのかを実証的・定量的に明らかにした。具体的には、①完全退職者は、そうでない人と比べて、一日当りの喫煙本数を2.3本減少させる事、②男性の喫煙量により大きい影響(一日当たり4.8本の減少)与える事、③正規雇用からの退職の影響は、一日当りの喫煙量7.5~9.3本の減少と、完全退職の影響よりも大きい事、④完全退職者は、そうでない人と比べて、飲酒頻度を20パーセント、定期的な運動の頻度を55パーセント増やす事、⑤正規雇用からの退職が飲酒と適度な運動の頻度に与える影響は、完全退職の影響より小さい事、等が実証的に明らかにされた。これらの結果は、WIASディスカッションペーパーとして纏められ、日本経済学学会、香港経済学会、アメリカ西部経済学会環太平洋大会等で口頭発表されている。 (2)過去20年の「国民生活基礎調査(CSLCJ)」データを詳細に分析する事で、①日本における消費者の自己申告健康状態は低下しつつある事、②高所得層と低所得層との間の健康格差が増加しつつある事、③所得と健康の間に大きい相関関係が存在し、所得分布(平均、分散、最頻値など)が健康状態によって大きく異なる事、④所得と健康の相関性の度合いが年齢層ごとに異なっている事、等が明らかになった。とりわけ興味深い点は、まず若年層の所得が健康状態によって大きく変化する一方、中年層にはこの格差の度合いが小さくなる事である。しかし、その一方で、高年層の所得と健康状態の相関関係が高まる傾向が看取された。これらの結果を基に、健康格差の増加原因を探る為、健康状態の労働生産性への影響と非正規雇用を顧慮した理論・実証研究をスタートさせている。
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