本研究は研究期間全体を通して、森林の多面的機能を収益化し、木材生産だけではなく、多面的機能全体の収益によって森林管理をすすめていくことが必要であることを示した。そのために、理論面として前提とする経済モデルが外部経済性の内部化モデルではなく、結合生産モデルを利用することが妥当であることを示した。また、実証面では、林業がすでに収益の3割を多面的機能からの収益で賄っていることと、木材生産に依存せずに森林管理を行っている事例が多く存在していることを示して、結合生産モデルが現実にも合致していることを示した。 本年度は木材利用に関する消費者意識調査と生産者に対するヒアリング調査を実施した。木材市場の両方の端に位置する需要者と供給者の意識を調査することで、多面的価値を積極的に産業に組み入れることが木材市場にもたらす影響を評価することができた。 消費者意識はWebを利用したアンケート調査を実施し、木製品と森林保護への寄付に関する支払い意思額を尋ねた。詳細な分析は実施できていないが、現時点では、木製品の活用意欲と森林保護への貢献意欲は非常に低いことが明らかになった。この結果からは、政府や民間がすすめる需要拡大策が消費者意識と合致していない可能性が示唆される。 生産者に対するヒアリング調査は、体系的な調査ではなく、数人に調査を行ったにとどまった。生産者の一部は自らの生産物が積極的に燃料として使用されることに抵抗感を抱いている。また、拡大造林以降の森林政策に不満を抱く結果、政府に対する不信感が強い生産者も見られた。この他に、間伐から満足する収益が期待できないため、間伐を実施せず森林を放置する事例もあることが分かった。これらの結果からは、林業については、短期的な施策よりも、長期的に森林管理・林業が持続可能な産業であることを示すモデルの提示が必要であると考えられる。
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