研究課題
最終年度は、本研究課題の中心的テーマである、エージェントの損失回避的性向を考慮した場合における、複数エージェントのモラルハザード問題についての研究を引き続き行った。期待に基づく参照点依存型選好を考え、参照点を内生化するようにもモデル化を行い、エージェントが成功した時だけでなく失敗した時にも報酬を与えることが望ましくなる可能性を示した。特に、同じ組織内のメンバーのうち一定割合以上が成功している状況においてそのような報酬が好ましくなることを示した。これは、損失回避性向を考慮した故の結果であり、契約理論で通常想定されるような損失回避性向からは導出しえない結果である。これに対する事例を探すとともに、理論の精緻化を行った。また、この研究に関連する新たな研究として、エージェントが期待に基づく参照点依存型選好を有する場合における、最適な職務割り当ての問題についても研究を行った。将来起こりうる状況に不確実性があり、状況によって職務を遂行するエージェントが異なるケースを考える。もし、将来の状況に依存した契約をかけるのならば、それぞれの状況においてもっとも生産性の高いエージェントに職務を割り当てるような契約を書くことが最適である。しかし、エージェントが損失回避的性向を有する場合には、状態に依存しない契約、つまり、常に特定のエージェントに職務を割り当てる契約が最適になることを示した。取引費用などの問題で通常考慮されるような要因がなくとも、損失回避性向により、状態に依存しない契約の最適性を示した点も一つの貢献である。
すべて 2013
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Discussion Paper Series, School of Economics, Kwansei Gakuin University
巻: 103 ページ: 1-15