研究実績の概要 |
本研究課題では、保険市場において情報の非対称性が果たす役割についての実証研究を行ってきた。既存研究では、保険市場において逆選択やモラルハザードが存在するかどうかの「テスト」を行ってきたが、本研究課題では、それらによる厚生損失がどの程度発生しているか、またそれらを改善するための望ましい政策のあり方について新たに検討を行ってきた。 次の3つの分析対象を扱ってきた。 一つ目は自動車保険データである。3万件の個票データを利用して、リスクとリスク回避度を同時に推定するモデル(Cohen and Einav (2007)AER)を推定し、その結果を米国の結果と比較してきた。本分析はまだ継続中であるが、アンケート調査などではなく保険の選択行動から数値的に明らかにしてきた点に本研究の貢献がある。また米国の研究結果と比較することで、日本人と米国人のリスク回避度の違いを同じ条件で比較することが可能となることから、日米の資産選択行動の違いなどをリスク回避度の観点から説明することを試みている。 二つ目は年金である。Einav and Finkelstein(2010, JEP)の手法を応用して、年金の未加入・未納問題における厚生損失を分析してきた。これにより男女それぞれについて厚生損失がどの程度であるかを具体的な数値として提示した。 三つ目は中小企業金融である。中小企業金融においては信用保証が利用されることがあるが、中小企業のデフォルトリスクについての情報の非対称性は、効率的な資源配分を阻害する可能性がある。信用保証制度における逆選択やモラルハザードの可能性について、銀行データを用いて分析を行ってきた。 以上3つのテーマについて分析を行ってきた。
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