本年度においては、非対称な国際間の輸送費用が存在する下で、すべての財に輸送費用がかかることを仮定し、複数の地域を持つ一国内の各地域の輸出に関する分析を行うための理論モデルを構築した。すべての財に輸送費用がかかることを仮定することで、モデル内において賃金格差が発生し、地域内の相対賃金が上昇するとその地域の輸出シェアが低下するという関係を理論的に示すことができた。ほとんどの先行研究においては、ニューメレール財には輸送費用がかからないことを仮定しているが、その結果として、労働者の賃金格差がモデル内で起こらない。しかし、実際には地域間で賃金格差が発生している。ゆえに、この理論モデルはより現実に近い世界を描写していると考えている。今後、この理論研究と実証研究を統合し、地域の輸出に関する論文として完成させる予定である。 加えて、非対称な国際間輸送費用が存在する下での企業立地と租税競争に関する理論研究を国際学会で発表した。 本研究においては、企業立地の理論分析に、第三国市場との間の非対称な輸送費用を導入した。非対称な輸送費用を仮定すると、企業は、第三国市場への近接性と第三国市場で活動している企業との競争の程度を考慮した上で、立地点を選ぶ。外国と近ければ、外国市場に低い費用で輸送することができ利潤を増加させることができるが、同時に、激しい競争にさらされるため利潤を減少させてしまう。その結果、立地の候補国(地域)が全く同じような国であっても、企業の立地行動がすべての候補国で同じになるとは限らない。先行研究のほとんどが、任意のふたつの国の間での輸送費用がいずれのペアでも同じである(輸送費用が対称である)ことを仮定しているが、その仮定は現実世界には当てはまらない。ゆえに、国際間の輸送費用が非対称であるという仮定を導入することで、より現実に近い理論モデルを構築できたと考えている。
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