本研究の目的は、表明選好法のコンジョイント分析を用いて医師の就業行動を的確に説明できる統計モデルを開発し、医師が最も重視する勤務条件を把握することにより、医師の地域偏在・診療科偏在の具体的な解消策を明らかにすることである。 分析に使用するデータは、インターネット調査により入手した。東京都23区や人口100万人以上の大都市に住む内科系の病院勤務医を対象に、異なる勤務条件を持つ複数の仮想へき地医療機関から勤務先を選択する質問や、主たる診療科の変更経験・変更意向などについてアンケートを行った。回答者がへき地の医療機関に単身赴任する状況を想定し、仮想へき地医療機関の勤務条件には、(1)勤務期間、(2)1週間の休日日数とオンコールの有無、(3)医療機関の種類(病院、診療所)と当直回数、(4)へき地以外の住居に週末帰宅するための交通費の支給、(5)へき地以外の住居に対する家賃補助、(6)へき地勤務後の高度医療・教育機関における自主研修、(7)へき地勤務期間中の子弟の修学に対する費用補助、(8)今の職場からの年収の変化額を採用した。 上記の対象条件の医師にアンケートを実施した結果、714名(平均年齢44.2歳、男性86.7%)から回答を得た。仮想へき地医療機関の選択結果を統計モデルにより解析した結果、回答者は勤務期間などの給与以外の勤務条件を非常に重視していた。また、186名(26.1%)が診療科の変更経験もしくは変更意向を持っていた。 本研究の重要性は、医師の地域偏在・診療科偏在の具体的な解消策が明らかとなることである。コンジョイント分析では医師が最も重視する勤務条件を金銭価値で定量的に把握できるため、分析結果に基づいて数ある中から最も実施すべき医師確保策を提示できる。本研究により、医師にへき地勤務を促すための重要な勤務条件や診療科の変更を抑えるための施策について明らかにすることができた。
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