研究課題/領域番号 |
23730267
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
樋渡 雅人 北海道大学, 大学院公共政策学連携研究部, 准教授 (50547172)
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キーワード | 開発政策 / 社会ネットワーク / 移民 / ウズベキスタン |
研究概要 |
本研究の目的は,ウズベキスタンの農村地域のコミュニティ(マハッラ)を対象に,独自調査によって収集したネットワーク・データを用いて,コミュニティに内在する社会ネットワーク(互助関係,血縁関係,その他の社会関係)の構造や変化の動態を捉えることを通して,開発政策や社会変容に対する含意を得ることである.本年度は,主に収集データを用いた分析を継続し,研究報告を行った. 本年度は,コミュニティに根付いた社会ネットワークが国外労働移民の送出に与える影響に関する分析を精緻化し,一定の結論を導くことができた.まず,ネットワーク内のポジション(中心性等)が移民に与える効果に関する分析からは,有意な効果を見出だせなかった.一方で,ネットワークのピア効果(Peer effects)が移民送出に与える影響については,ネットワークの種類によって有意な効果を見出すことができた.具体的には,Bramoulle(2009)に基づき,ネットワーク・データの特性を生かすことで,ピア効果の識別(内生的効果,外生的(contextual)効果, 相関(correlated)効果)を試みた.推計には,一般化空間2段階最小二乗法(generalized spatial two-stage least squares) 及び 最尤法を用いた.結果としては,正のピア効果が確認されたのは,全ての種類のネットワークを分析に含めた場合,及び,慣習的な会合のネットワークに限定した場合であった.一方で,親族関係のネットワークに限定した場合は,有意な正のピア効果は認められなかった.一つの理由として,親族ネットワークのコミュニティ内における他の競合する機能(リスク・シェアリング等)の存在が影響している可能性が挙げられた. 本年度は,上記の内容を,報告論文としてまとめ,学会報告や学会誌投稿を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の実施過程においては,①現地調査を通じた家計調査データ及びネットワーク・データの収集と,②収集したデータを用いた統計学的モデルの構築と推測統計学的分析,が二つの柱となる.本年度は,②に関しては,ネットワーク効果の計量分析について,昨年度は課題として残していた諸点(ピア効果の識別問題,ネットワークの種類を分けた詳細な分析)に関する分析を精緻化させ,研究報告などを通して,論文の完成度を高めることができた.一方で,9月に計画していた海外現地調査が,諸事情により実現せず,予定されていたフィールド調査を実施できなかった.今回遅れた補完データの収集については,特に,ネットワークの構造に関わる分析に必要であるため,来年度中に実施したい.
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今後の研究の推進方策 |
今後も,現地調査により収集したネットワーク・家計データを用いた計量分析は継続するが,次年度は,国際学会報告と論文投稿に重点を置く.ネットワークのピア効果に関する分析については,研究報告や学会誌投稿等を通して改訂を重ねている段階であるので,今後も作業を進め完成させたい.ネットワークの構造に関する分析については,さらなる分析を進めつつ,結果をまとめる作業を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度に未使用額が生じた主な理由は,9月に計画していたウズベキスタンにおける現地調査が,他の学内業務等の関係で実現せず,外国旅費が未使用となったことによる. 次年度は,繰り越した外国旅費を用いて,ウズベキスタンにおける現地調査を実施する.現地調査は,9月に実施する予定であり,調査地は,アンディジャン州オルティンクル市に所在するマハッラ(村落)とする.次年度の外国旅費は,主に海外現地調査と海外学会報告のために用いる.
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