本研究の目的は,ウズベキスタンの農村地域のコミュニティ(マハッラ)を対象に,家計調査によって収集したネットワーク・データを用いて,コミュニティに内在する社会ネットワーク(互助関係,血縁関係,その他の社会関係)の構造や効果を分析することを通して,経済開発や社会変容に対する含意を得ることである。 本年度は,既収集のデータの分析を継続し,国際学会における発表や論文投稿を行った。まず,ネットワーク効果(peer effect)としては,農村世帯の就業や生産活動に与える影響について,空間自己回帰モデルを用いて分析した。結果からは,雇用や収入に与える一定の正の効果が確認された。分析結果は6月に国際学会において報告したうえで,国際学術誌に論文投稿を行った(修正・再投稿中)。また,コミュニティ内のプライベート・トランスファー(家計間の私的な現金・財貨の移転授受,以下,PT)の決定要因について,PTの起点と終点となる二世帯間の距離(経済的,社会的,空間的)や二世帯の所属がもたらす影響に着目し,計量分析(ダイアディック回帰分析)によって検証した。結果からは,所得再分配やリスク・シェアリングよりも,親族関係などの社会的要因の強い影響力が見出された。この分析結果は,11月に国内学会において報告した。また,家計の移民行動に与えるネットワーク効果については,昨年度に引き続き,国際学術誌(Journal of Comparative Economics)に投稿した論文の修正・再投稿を進め,3月に出版の最終承認を得た。 研究期間全体を通して,ウズベキスタンにおける農村世帯の多様な経済活動(移民,就業,生産,相互扶助)を対象に,社会ネットワークの動態との関係性を分析することによって,コミュニティにおける社会ネットワークの役割を実証的に示したという点で十分な成果が得られた。
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