本研究では激変する経済環境のもとでの経済と企業部門、とくに中小企業との関係について実証的に研究を行った。世界金融危機をはじめとする経済的なショックに加えて災害の影響についても幅広く検討した。さらに、企業部門が直面している課題と考え得る対応策について関連諸政策の動向も踏まえながら分析を進めた。政策・制度と中小企業セクターの関わりについて、とくに大学関連の新興企業に関する研究成果がまとめられた。起業金融機能との関係では新興株式市場の低迷や世界金融危機の影響も大きく、これらの企業にとっても上場後の成長の実現が基本的な課題となっていることなどが示された。また、中小企業の知的財産活動に関する研究成果がまとめられた。信頼性の高い複数の大規模な統計調査の結果から、可能な限り包括的に中小企業の知的財産活動の現状と課題を検証した。模倣被害、および知的財産と資金調達の関係等を取り扱っている点にも特徴がある。加えて、組織変革や教育訓練といった一般的な公開情報からは捉えにくい企業内活動に関する調査等に参加し、世界金融危機後の中小企業の事業実績について分析を行う機会を得た。これら成果の一部はコンファレンス等でも報告し諸方面の専門家との議論および情報交換を行った。理想的には個々の企業の成功が積み重なり経済全体でもプラスになればということではあるが、事業創造は基本的に賭けの要素が大きく、最低限リターンの見通しに関する冷静な検討が不可欠である。
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