我が国のように国土の狭い先進国においては、迷惑施設と捉えられがちな廃棄物処理施設の建設が困難である。そうした背景を踏まえて、リーガルな処理施設の建設を拒否することは結果としてイリーガルな行為である不法投棄を「裏庭」で行わせることを誘発しているのではないか、という問題意識を検証することが本研究の目的である。この点については、既にIchinose and Yamamoto (2011) で日本のデータを用いて分析をおこなったが、本研究では、先進国の中で日本に近い地理的特徴をもつと思われるイギリスを例にその頑健性を確認した。 研究の理論的背景は、Ichinose and Yamamoto (2011)による方法を踏襲したが、実証分析においてはIchinose and Yamamoto (2011)では採用していなかった空間計量経済学の手法を用いて、以下の3つの仮説を検討した。第一に、いわゆる「割れ窓理論」に基づいて、周辺の市町村において、不法投棄が多く観察される場合には、当該市町村においても多くなっているのではないかという点をSpatial lag Modelによって検定した。その結果、不法投棄における「割れ窓理論」が正当化された。第二に、廃棄物関連施設の充実が不法投棄削減に貢献するという仮説を検討したが、Ichinose and Yamamoto (2011)と同様に施設の充実が不法投棄を減少させるという結果を得た。第三に、家庭ゴミの回収頻度がどのように不法投棄に影響を与えているかという点を検討した。これは家計のリサイクル率の上昇に、家庭ゴミの回収頻度を下げることが影響するという既存研究と比較するために行ったが、結果として回収頻度の不法投棄への影響はみられなかった。これにより、不法投棄対策とリサイクル率向上の政策が矛盾しないことが明らかになった。
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