研究課題/領域番号 |
23730278
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
中村 健太 神戸大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (70507201)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 特許付与前情報提供制度 / 特許経済分析 |
研究概要 |
特許制度の経済分析を行う場合、特許の制度面、また制度の法学的解釈について十分な理解を有することが望ましい。そこで初年度はまず、文献サーチ等を通じて、情報提供制度並びに関連制度の基礎的な理解を深めるよう努めた。経済学の文献では、情報提供制度そのものを扱った研究は見られなかったものの、安定的な特許権の重要性に関する理論的な分析としてFarrell and Shapiro (AER, 2008)など複数の重要文献が存在した。実務家や法学者による著作としては、瑕疵のある特許の是正制度に関して体系的な分析として、日本弁理士会中央知的財産研究所の一連の研究(別冊Patent Vol.64 No.10及びNo.16)が有益であった。また、先述の情報収集と平行して分析用データセットの構築を行った。まず、特許庁提供の情報提供データ(1990 年から直近までの出願に対する情報提供)の整備を行い、その後、その他特許データベース(知的財産研究所の『IIP パテント・データベース』及び欧州特許庁(EPO)の『PATSTAT』)との接続作業を実施した。また、データセットの構築過程で、『IIP パテント・データベース』の不具合が多数発見されたため、国内の研究者とプロジェクト・チームを組織し、データベースの問題点の洗い出し及び修正作業にあたった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特許制度の経済分析を行う場合、特許の制度面、また制度の法学的解釈について十分な理解を有することが望ましい。そこで、経済学分野に留まらず、実務家や法学者による著作も対象としてサーベイを行ったところ複数の有益な文献を発見することができた。また、分析用データセットの構築も当初の予定通り進めることができた。さらに、データを整備する過程で、本研究の実証分析における最も基礎的なデータである『IIP パテント・データベース』の精度向上も実現することができた。これにより、次年度以降の定量的分析においてよりノイズの少ないデータの利用が可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
平成24 年度は、観測単位を特許レベルとした三つの回帰分析を行う。(i)情報提供の決定要因分析: 情報提供に関する意志決定は、(1)情報提供を行うことによって当該出願が特許されないことによる期待利益と費用、(2)審査の過誤によって特許性のない発明が権利化されるリスクの大きさ、に依存すると考えられる。中村(2010)では、情報提供の有無を表すダミー変数を従属変数とし、前方引用数等で測った当該特許の技術的価値や、技術分野の混雑度の変数が情報提供確率に与える影響を検証したが、24年度は、これらに加えて、出願人の有する補完的資産の規模(売上高等で測った企業規模)や、出願人のR&D 集約度を説明変数に追加し、情報提供によって特許成立が阻止されるリスクとこれら出願人属性との関係を明らかにする。(ii)情報提供の審査請求行動に対する効果: 特許出願が審査請求されるか否かは、発明を特許化することによって実現する価値と、審査請求費用との大小関係で決定される。回帰分析では、審査請求の有無を表すダミー変数を従属変数とし、審査請求確率に対する情報提供の効果を推定する。コントロール変数には、当該特許の各種価値指標や補完的資産の規模等を用いる。(iii)情報提供が特許審査(特許の拒絶査定)に与える影響: 情報提供制度は、特許出願に係る発明が新規性・進歩性を有していないなどの情報を提供するものである。したがって、第三者が審査において有用な情報を提供していれば、情報提供の対象となった出願は、拒絶査定を受ける確率が増すはずである。そこで、当該特許が拒絶査定を受けたことを表すダミー変数を従属変数として、当該特許の技術的価値や技術的価値の不確実性(代理変数:出願日から審査請求までの日数)をコントロールした上で、情報提供の効果を推定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24 年度は、上述の定量的分析を行い、その成果を国内外の学会で公表することを通じて研究内容の深化発展を目指す。英語校閲費、成果公表のための国内旅費、外国旅費はこうした目的を達成するために必要不可欠な支出である。また、最新の文献を購入し、知識の蓄積に努める。書籍代はそのために必要な経費である。
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