昨年度までに構築した「児童労働に対する効率賃金」が開発途上国の経済活動へ与える影響を分析するためのモデルに基づき、今年度はコンピュータによるシミュレーションを踏まえたモデルの定量的な分析と政策提言をおこなった。以下にその分析の概要を述べる。 親の人的資本水準の低い家計では所得も低く子供の栄養水準も低い。よって児童労働の生産性も低くなり教育水準も低くなるという貧困の罠を、定量分析においても確認した。また、ある程度人的資本水準が高くなると、児童労働が消滅し経済が発展した定常状態に向かうことを確認した。 以上の定量分析を踏まえ、児童労働撲滅のための政策として教育政策と企業の取り締まりという2つを分析した。前者に関して学校の建設や教員数の確保等、効率性を上昇させるような教育政策についても児童労働の削減に対して一定の効果は確認できたが、効率賃金による貧困の罠に陥っている家計には効果が薄かった。一方、現在実際に取り組まれているようなFood For EducationやProgresaのような、食事や所得の補助が追加される教育政策が児童労働の削減により強い効果がある可能性を示した。企業の取り締まりに関しても単純な規制では効果が薄く、家計への食事や所得の補助を追加することにより児童労働削減の効果が強くなることが示された。 最後に、本研究課題である児童労働に関連するその他の研究成果を述べる。1.FDIが児童労働に与える影響を分析し、貿易政策や教育政策が経済発展にどのような影響を与えるのかを分析した論文を英文査読付き学術誌に投稿し、改訂した後の再投稿の依頼がきた。現在改訂作業中である。2.発展途上国政府のガバナンスの効率性に注目し、児童労働へどのような影響を与えるかを分析した。その研究結果の一部を中部経済新聞に掲載した。
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