研究課題/領域番号 |
23730291
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
石川 路子 (伊藤 路子) 甲南大学, 経済学部, 准教授 (10379464)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 医療・介護 / QOL / エンド・オブ・ライフ・ケア / 格差 |
研究概要 |
本研究の最終目標は我が国独自のエンド・オブ・ライフ・ケア・プログラムを構築・提言することにある。このプログラムの理論的裏づけのために、在宅ケアにかかるコスト分析を計画的に行っていく。この目標を達成するために、初年度は(1)医療政策の動向の把握や(2)関連先行研究の整理を行うことで、在宅ケアにかかるコスト分析を行うための基礎的知見を養う期間として位置づけている。初年度の研究実績として、具体的には、(1)終末期医療等関連先行研究の整理をした上で、(2)国内外で実施されている医療政策の動向の把握、(3)入手可能なデータベースの整理、を行った。(1)に関しては、医療・介護の質を分析・検証するのに必要なクオリティ・オブ・ライフの観点から先行研究の整理を行った。これには患者の幸福感(well-being)の考え方が大きく関わっていることから、アマルティア・センやジョン・ロールズなどによる厚生(welfare)の概念を整理したうえで、我々が達成すべきクオリティ・オブ・ライフを整理した。(2)に関しては、クオリティ・オブ・ケアの視点を踏まえつつ、国内外を含めた具体的な医療政策の動向を検証している。具体的には、医療費(医療保険)、医療サービスの質、政府介入の必要性等、様々な観点から諸外国の医療政策の動向を整理した。(3)としては、総務省統計局が発行する家計調査報告や、厚生労働省が実施している「医療施設調査」、「受療行動調査」等、本研究に活用可能な各種データベースを整理した。なお、初年度に得られた具体的な成果として、NCU現代経済学研究会、日本応用経済学会春季大会にて、関連論文を発表したほか、医療格差分析で重要なカクワニ(Kakuwani)尺度を改良した新たな尺度を提案した論文については、海外査読論文Health Economics Reviewへの掲載が確定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目標は我が国独自のエンド・オブ・ライフ・ケア・プログラムを構築・提言することであるが、研究初年度である本年度は、目標年次での目標達成に向けて着実かつ計画的に研究を遂行できていると考えている。その一方で、これまで先行研究を分析した結果、「医療倫理」の研究の必要性が高いことを改めて確認した。エンド・オブ・ライフ・ケア・プログラムの構築には、クオリティ・オブ・ライフの計測が重要な要素の一つになる。クオリティ・オブ・ライフの計測は、医療のアウトカム指標の検証につながるが、それにはインフォームド・コンセントや延命治療に関する意志決定を含め、医療倫理を明確にする必要がある。この意味でも、経済学の観点からのみならず、哲学の観点からの「倫理」を捉える必要がある。このため、先述のセンやロールズに加え、デイヴィド・ゴティエやロナルド・ドゥウォーキンなどの哲学者らによる研究についても、適宜分析する必要がある。この点は、初年度の研究を通じて得られた一つの課題であり、今後、当初の研究計画と並行的に推進していくべき研究であると考えている。また、当初1月頃の開催を予定していたワークショップは、東日本大震災の影響等による時間的な制約が厳しく、延期せざるを得なくなった。この状況は、反省材料の一つであるが、次年度はより有益なワークショップを開催できるよう、計画中である。学生や地域住民のみならず地域の専門家等を交えたワークショップを行うことにより、有益なエンド・オブ・ライフ・ケア・プログラムの構築に資する知見を得られることを期待している。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定では、次年度にあたる平成24年度は、在宅ケアにかかるコスト推計を介護ケア、医療ケアの観点から順次分析する期間として位置づけている。これと並行して、初年度で出た課題の一つである(1)医療倫理の概念の整理に取り組むとともに、(2)公開ワークショップの開催を予定している。(1)に関しては、医療倫理に関する海外の先行研究の調査・分析を行うとともに、我が国における医療倫理の考え方を整理する。これに関しては、研究が広範にわたるため、本研究に必要な知見を得るという目的を常に念頭に置きながら、計画的に進める予定である。(2)に関しては、現時点では50名程度の参加者を念頭に置いたワークショップを8月初旬に開催することを予定している。開催にあたっては、専門家の招聘のみならず、本研究テーマに興味を持つ参加者の誘致に積極的に取り組む予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度において、研究費は当初の計画どおり、主に本研究で用いる基礎データや書籍・資料、消耗品の購入に充当する。また、ワークショップ開催にかかる経費として文具等消耗品費、印刷費等を予定していると同時に、資料収集等や研究成果発表にかかる経費として交通費等を予算として計上している。これらを適正に使用することにより、本研究を効率的に推進する予定である。
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