研究課題/領域番号 |
23730291
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
石川 路子(伊藤路子) 甲南大学, 経済学部, 准教授 (10379464)
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キーワード | 医療・介護 / QOL / エンド・オブ・ライフ・ケア / 格差 |
研究概要 |
本研究の最終目標は我が国独自のエンド・オブ・ライフ・ケア・プログラムを構築・提言することにある。このプログラムの理論的裏づけのために、在宅ケアにかかるコスト分析を計画的に行っていくことが本研究の大きな流れである。この最終目標を達成するため、平成24年度においては、在宅ケアにかかるコスト推計を介護ケア、医療ケアの観点から分析を行った。初年度の研究実績から、介護ケアの観点からのコスト推計を検討する際には、単に金銭的費用を分析するのではなく、我が国で達成すべき「クオリティ・オブ・ライフ」の概念を整理する必要があることが明らかとなっている。具体的には、コスト推計に際しては、当該ケアが患者およびその関係者にもたらすベネフィット、負担を検証する必要がある。この、患者の関係者が受けるベネフィットや負担の代理変数をどのように設定すべきかを検証するために、平成24年8月6~8日、行政および民間団体等の専門家を交えたワークショップを行った。本学の位置する神戸市東灘区は、認知症高齢者等と家族が住みなれた場所で安心して暮らすための地域づくりを目指し、兵庫県の「東灘区認知症地域資源ネットワーク構築事業」のモデル地区として在宅ケアを積極的に推進している実績を持つ。このことから、この事業に関わる専門家として、神戸市、東灘区の保健福祉関係者、東灘区社会福祉協議会、本山西部あんしんすこやかセンターの方々を招聘し、在宅ケアの高齢者の現状と課題に関する意見交換を行った。この意見交換を通じて、地域レベルでの緊密なネットワークの構築の重要性が明らかになった。このことは、患者およびその周囲の人々のベネフィットをネットワークの緊密性で代理することができる可能性があることを示唆している。この結果を受け、地域ネットワークの緊密性の推計をさらなる目的に掲げ、平成25年度の分析を継続的に行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目標は我が国独自のエンド・オブ・ライフ・ケア・プログラムを構築・提言することであるが、目標年次での目標達成に向けて着実かつ計画的に研究を遂行できていると考えている。8月6日から3日間に開催されたワークショップでは、学生や一般市民が約30名程度出席し、忌憚ない意見交換が行われるなど、有益なエンド・オブ・ライフ・ケア・プログラムの構築に資する知見を得られている。今後は、ネットワークの緊密性の推計という新たな課題を積極的に取り組み、より完成度の高い在宅ケア推計の構築を行っていく所存である。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度にあたる平成25年度には、本研究課題の当初の予定通り、在宅介護・医療ケアにかかるコスト分析を継続的に実施すると同時に、我が国独自のエンド・オブ・ライフ・ケア・プログラムの構築に向けて、計画的に研究を実施する予定である。平成24年度の研究成果の一つとして、在宅ケアのクオリティ・オブ・ライフの推計にあたっては地域ネットワークが重要な指標の一つであることが確認できた。この結果を受けて、オランダ・アムステルダムにあるVrije Universiteitの空間経済学科に籍を置かれるDr. Peter Nijkamp及びDr. Eveline van Leeuwenとの共同研究を行うことになった。Peter Nijkamp教授は、Handbook of Regional Economics (1986)やMulticriteria Analysis in Physical Planning (1998)など、空間経済学を専門とする世界的に著名な経済学者の一人である。なお、Peter Nijkamp教授には本研究課題の趣旨等を理解されており、本研究に積極的に協力していただけるとのことである。Peter Nijkamp教授のもとで地域ネットワークの推計手法を学ぶことで、本研究成果をより有意義なものにすることができると自負している。
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次年度の研究費の使用計画 |
最終年度である平成25年度においては、平成24年度からの繰越金16,069円と合算し、当初の計画どおり、主に本研究で用いる基礎データや書籍・資料、消耗品の購入に充当する予定である。また、資料収集等や研究成果発表にかかる経費として交通費等を予算として計上している。 なお、Peter Nijkamp教授らとの共同研究のため、Vrije Universiteitのあるオランダ・アムステルダムに渡航する予定であるが、この諸経費については甲南大学在外研究員規程第5条に基づく在外研究員にかかる経費として捻出される予定である。ただし、その間の本研究課題に関連する資料収集等などの経費に関しては、本研究費の対象として充当する予定である。 これらの研究費が社会から負託されたものであることを改めて再確認したうえで、適正かつ効率的な使用に努め、社会に資する有益な研究成果が得られるよう本研究課題を遂行する予定である。
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