本年度は、農家アンケート調査(昨年度実施)の対象地域において、当該地域での農業生産・農産物流通の実情や地方政府による農業関連政策(農業産業化や協同組合支援への取り組み)に関する補足調査を実施するとともに、アンケート調査を用いた実証研究を進めてきた。 実証分析では、農業協同組合への加入・未加入(契約農業への参加・未参加とほぼ同値)の決定要因について、世帯の基本属性と世帯主の農業生産への態度(農業技術への積極性、村民大会への参加度合い、リスク選好度など)に注目し、プロビット分析によって特定化した。さらに、操作変数法とマッチング(Propensity Score Matching: PSM)によるインパクト評価法を用いて、農業協同組合への加入による農業所得への経済効果を定量的に計測した。分析の結果、協同組合への加入は、販売単価の上昇や単収の増加を通じて対象農作物から獲得できる所得を有意に高める一方で、農業所得全体の増収効果については必ずしも有意な効果を持たないこと、そして協同組合への加入には農業労働の機会費用も強く影響していることが示された。 他方、経済発展水準が相対的に高く、かつ協同組合の規範化が進展する江蘇省南通市の協同組合では、大手量販店と優良農産物の販売契約を締結することで、市場価格よりも有意に高い販売価格を実現しているのに対して、規範化が後れる山西省新絳県の協同組合では、対象農産物は卸売市場での市場価格販売が主であるため、協同組合加入の増収効果は相対的に小さいことが明らかとなった。 これらの実証結果に対して、学会や研究会で研究発表を通じて討論者やフロアーの参加者から有益なコメントを数多くもらい、論文内容の修正と改善に努めた。本年度の研究成果の一部は、中国語論文(共著)として学会誌に投稿済みであり、日本語・英語での学会誌への投稿準備も進めている。
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