本研究は国民健康保険(以下,国保)の都道府県単位化のシミュレーションを行い,制度変更の意義と限界を明らかにすることを目的とした。この目的を達成するため,本研究は次の3つの分析・調査を行った。 (1)市町村国保の現状分析を行い,制度変更が何を解決するのかを明らかにする。/(2)インタビュー調査を行い,文献やデータでは明らかにならない点を明らかにする。/(3)国保の都道府県単位化のシミュレーション分析を行い,政策の評価を行う。 最終年度は,(3)「都道府県単位化のシミュレーション分析」について行った。具体的には,A県(県名を非公表とすることを条件としてデータが提供された),千葉県,三重県,大阪府,広島県,B県(同),C県(同)の公表データおよび提供データを用いて,現在は対象医療費が30万円以上である保険財政共同安定化事業(保険者からの拠出金を原資とする)の対象医療費を1円以上とすることによる国保の都道府県単位化についてシミュレーションを行った。その結果,都道府県単位化によって被保険者の保険料負担の格差はおおむね縮小し,政策目的のひとつである保険料の平準化は実現するが,保険財政共同安定化事業拠出金の按分方法によっては非都市的な地域において拡大する可能性があることが明らかになった。都道府県単位化のシミュレーションを行うことによって,保険料の地域間格差に対する制度変更の影響を具体的に見ることができた。 研究費申請時点においては,都道府県単位化は将来的に進められる制度変更であったが,研究期間中に厚生労働省から2015年度から国保の都道府県単位化を実施する方針が示されたため,本研究から得られる政策的インプリケーションは極めて大きくなった。現時点でも審議会等の資料でシミュレーションを行っているものは見当たらず,国保の都道府県単位化に関する先駆的な研究となったといえるであろう。
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