研究課題/領域番号 |
23730297
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
二宮 真理子 東京大学, 経済学研究科(研究院), 助教 (70580827)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 確率微分方程式 / 高次弱近似 / 楠岡近似 / ファイナンス |
研究概要 |
確率微分方程式の高次弱近似による数値計算の高速化が本研究の主要な目的である. 研究代表者は既に楠岡によって提案された高次弱近似手法(楠岡近似と呼ぶ)の2次のアルゴリズム(KNNアルゴリズムと呼ぶ)を構築していたが、その普及と改良、またその為に必要な理論研究と数値実験が平成23年度の目的であった. 以下では実施計画に沿った順に実績を報告する. KNNアルゴリズムにおいて、抜き出したODEに対して陽的Runge--Kutta法を用いてきた. しかしモデルによっては陰的Runge--Kutta法を用いることにより計算速度の高速化の可能性があるのではないかと考え、まずはその適用可能性の証明を平成23年度に行った. 楠岡近似の、KNNアルゴリズムよりも高次の(すなわち2次よりも高次の)アルゴリズムの構築を念頭にした理論研究においては、確率変数の共分散行列の満たすべき条件式(連立方程式)の冗長性を23年度に発見した. これにより条件式は大幅に減らせることにはなるが、 最終的には連立方程式が解を持つために必要な次元を求めなくてはならない. その判定には膨大な計算時間がかかることも分かった. 楠岡近似はもともとリプシッツ連続な関数をその適用対象としている. その適用範囲をバリアー型オプションにまで広げるため、本研究においてkilling functionによって境界条件に対するhitting probabilityを与えることで楠岡近似をバリアー型オプションの価格計算に適用した. その結果, 単純なモデルにおいてはヨーロッパ型に適用した場合とほぼ同じオーダーの近似を達成した.KNNアルゴリズム、NVアルゴリズム(楠岡近似に対する2次のアルゴリズム)、1次弱近似のEuler--丸山法を盛り込んだライブラリの作成、公開、発表を行い実務家や研究者からの非常に大きな需要を確信することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下、研究実施計画に沿って達成度を説明する. 結論から言うと、1.の数値計算以外に関しては計画通りまたはそれ以上の達成度と言える. 1. 一般的なRunge--Kutta法の適用可能性についての証明は完成したが、数値計算を行うまでに至っていない.2. 高次弱近似の為の確率変数に関する理論研究においては、ベクトル場の特徴などから共分散行列の満たすべき条件式の数を大幅に減らせることがわかった. これにより、更に高次の弱近似を目的とした確率変数の満たすべき分散共分散行列の構築の可能性も出てきたことになる. これが実際に可能となれば、楠岡近似の3次の弱近似アルゴリズムの開発の達成となる.3. 1次元のバリアー型オプションに対するKNNアルゴリズムの適用の数値計算を行い、予想以上の精度を達成する結果を得た. 4. KNNアルゴルリズムと、その他2種類の弱近似(NVアルゴリズムとEuler--丸山法)の数値計算ライブラリを作成し、ドキュメンドと共に公開した.
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今後の研究の推進方策 |
KNNアルゴリズムのライブラリの公開の際、実務や研究における需要があるという手応えを感じたため、今後は以下のような方針での研究の推進を考えている. KNNアルゴリズムでは、 ODEの抜き出しの際に扱うベクトル場が複雑な形をしていることから、Runge--Kutta法の適用を前提としている. しかし数値計算における大きな問題は、モデルが少し複雑になるとRunge--Kutta法による近似にかかる時間が莫大になることである. 近似精度が同じ2次であるNVアルゴリズムでは比較にならないほどの差が出る. これまで研究代表者は楠岡近似の利点である「モデルに依存しないアルゴリズム」ということに的を絞ってきたが、計算時間の問題は実務家にとって非常に大きなものであるため、今後のKNNアルゴリズムの更なる普及の観点から、Runge--Kutta法を回避できるモデルにも着目していく必要があると考える. 最近、Friz--Bayet--LoeffenによるNVアルゴリズムを対象とした閉形式解法の手法がNNアルゴリズムにも適用できることを二宮(祥一)・久保により発見された. この手法が適用できる場合, NNアルゴリズムにおいてRunge--Kutta法を回避できることになる. このようなモデルを扱えるライブラリの開発を進め、更に実務家や研究者等が自らそのようなモデルを発見した場合に即座に計算が行える環境を整えていきたい. バリアー型オプションに関する研究において、1次元のモデルに対して楠岡近似を用いた数値実験を行ったが、予想を越える近似精度が出た. その原因はモデルの単純性とhitting probabilityの近似精度であると思われる. 今後は数値実験をさまざまなモデルに対して行うことで, 楠岡近似の適用可能性と方法を探りたい.
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度に行ったライブラリの発表は所属機関で行うこととなったため、旅費は使用せずに済んだ. また、数値計算を行った時期が年度末に近かったため、年度内の物品の購入を控えたことにより未使用分が発生した. 23年度のライブラリの発表の結果、楠岡近似の実用化の必要性を強く感じたため、 24年度は上で述べたような数値実験と理論研究に重きを置き、23年度未使用分の直接経費と次年度の直接経費は、主に膨大な数値計算において平行してプログラムを回すためのPCの購入と、書籍の購入に充てる予定である.
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