研究概要 |
本研究の目的は確率微分方程式(SDE)の高次弱近似による数値計算の高速化とソフトウェアライブラリの提供であるが、研究を進めるにあたり、その先の実務への応用を視野に入れた。 研究代表者は、楠岡によって提案された高次弱近似手法(楠岡近似)の枠組みを実現するアルゴリズム(NNアルゴリズムと呼ぶ)を既に(二宮--二宮, 2009)発見していた。このアルゴリズムと二宮(祥一)--Victoirによるアルゴリズム(NVアルゴリズムと呼ぶ)は、いかなるベクトル場であってもSDEを決定するベクトル場さえ与えれば近似を正しく実現するという特徴があるため、汎用のソフトウェアライブラリを作ることができる。平成23年度にそのNNアルゴリズムを含む全3種類のアルゴリズムのライブラリ化を行ったが、平成24年度はそのライブラリの改良とアルゴリズムの拡張を目的として以下に述べる実績を上げた。 平成23年度に作成したライブラリにおいては、NNアルゴリズムを用いる際は必ず高次Runge--Kutta法が適用されていた。NNアルゴリズムは高次Runge--Kutta法を適用することでいかなる問題に対しても計算が実行できるという汎用性と頑健性を持つためである。しかしSDEによってはそれを定めるベクトル場の積分が陽に求まる場合がある。そこで平成24年度は、与えられた問題によっては高次Runge--Kutta法を経由せずに計算を実行できるようライブラリを改良した。 平成23年度に、本来の楠岡近似の適用対象外であったバリアー型オプションへの楠岡近似の適用を目的として、killing functionを用いた計算を行った。そこで得られた結果は精度が非常に高いところでの議論であるため、結論を述べるには更なる計算が必要であると考え、平成24年度はその計算データを集めることを目的に一様分布列を変えるなどの方法で大量の計算を行った。
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