研究課題/領域番号 |
23730303
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
浅井 義裕 明治大学, 商学部, 講師 (60433645)
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キーワード | 保険需要 / 銀行窓販 / リレーションシップバンキング / リスクマネジメント |
研究概要 |
2012年度の研究成果として、以下の論文が公刊されている(もしくは、論文が公刊のプロセスにある)。研究の成果は3つに大別することができる。 1.サーベイ(1本)佐藤一郎・浅井義裕 (2013) 「中小企業金融におけるリレーションシップバンキングと保険の役割」 『城西現代政策研究』 第7号1巻 近日公刊 【概要】中小企業金融におけるリレーションシップバンキングと保険需要の研究について先行研究の展開を概観した論文である。 2.中小企業の保険需要に関する実証研究(3本)・家森信善、浅井義裕、高久賢也 (2012)「中小企業の保険購入に関する調査 ― アンケート結果のまとめ-」『経済科学』 第60号 2巻 pp.97-118,家森信善、浅井義裕、高久賢也 (2013)「保険の銀行窓販解禁後の中小企業の保険需要―企業アンケートに基づく実態調査―」 『損害保険研究』 第74巻4号 近日公刊,その他1本 【概要】東海地方の中小企業に対してアンケートを実施し、中小企業の保険需要とリレーションシップバンキングについて実証的な分析を行っている。 3.個人の保険需要の実証研究(1本)On Household Insurance Demand and Loss Control—Evidence from the Great East Japan Earthquake, International Journal of Business 18(3), Forthcoming 【概要】企業の保険需要と関連して、東日本大震災以後の家計の保険需要についての実証的な分析を行った。 また、上記の研究の成果の一部が、下記の新聞に掲載された。家森信善、浅井義裕、高久賢也 (2013) 『保険毎日新聞』 (2013年1月29日)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度(2011年度)に行ったサーベイの成果を 『城西現代政策研究』から公刊した。海外の研究成果を概観すると、銀行業における競争が激しくなると、中小企業が借り入れることができる資金の量が増加し、課される金利も低下すること、担保がある場合、金利は高くなるが借りられる資金量は増加することが確認できた。一方で、取引年数、取引行数、銀行と企業の距離などが、中小企業が借り入れることができる資金の量や金利に与える影響については、明らかになっていないことが確認できた。さらに、中小企業の保険需要に関する研究は、ほとんど行われていないことも確認できた。 次に、東海地方の中小企業(325社より回収)に対してアンケートを実施し、中小企業の保険需要についてごく簡単な実証的な考察を行ったのが、『経済科学』、『損害保険研究』の成果である。これらの研究では、経営状態が悪い中小企業のほうが保険を需要しているという結果に加えて、銀行による中小企業に対する保険商品の圧力販売問題は深刻ではないなど、政策的な含意を持つ結果を得ることができた。上述のサーベイ、実証研究は、当初の予定通りに進んでいる。 それに加えて、2012年度には、第一生命寄付講座から、研究費などの協力を得て、東日本大震災以後の家計の保険需要についての実証的な分析を始めることができた。その結果、所得が高い層において地震に対するロスコントロールがかなり行われていること、どの所得階層においても、地震保険よりもロスコントロールが好まれることが明らかになった。中小企業の保険需要と関連するテーマであり、今後の研究の展開が期待できると考えている。なお、2012年度に行う予定であった中小企業向けのアンケート調査は、基金化された制度を利用し、より大きな規模のプロジェクトとして、2013年度中に実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度(2013年度)のプロジェクトでは、基金化された若手(B)科研費の長所を十分に利用して、夏期から秋期に中小企業向けに、まとまった金額でアンケート調査を実施し、それらを分析していく予定である。 具体的には、以下の点を明らかにしたいと考えている。第1に、金融円滑化法の廃止などに伴い、中小企業の資金調達が困難になる局面が想定されるが、こうした中小企業において、保険が果たす役割について考察を進める予定である。第2に、本プロジェクト期間中に発生した東日本大震災が、中小企業のリスクマネジメントに与えた影響について、実証的な考察を進める予定である。さらに、実証的な考察の結果をもとに、中小企業における望ましいリスクマネジメントのあり方を提示しようと試みる。最後に、中小企業の経営者個人の保険需要についても、示唆を得ようと試みる。 研究の成果を迅速に公表するために、2012年度までと同様に、掲載に時間のかからない国内の学術雑誌から公刊を始める予定である。また、すでに2012年度の研究成果の一部を新聞に掲載しているが、2013年度の研究の成果を広く一般に公表するために、一般向けの新聞や雑誌への掲載を計画し、将来的には書物としてまとめることも検討している。最後に、本プロジェクトの成果は、保険リスクマネジメント研究分野のコアジャーナルであるJournal of Insurance Issuesやカリフォルニア州立大学フレズノ校が公刊するInternational Journal of Businessから公刊してきたが、本年度の研究成果も、世界中の、より多くの研究者に向けて発信できるように、海外の学術雑誌へ投稿していく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
これまでの一連の研究成果は、主に、所属する大学の研究費や民間の公募制の研究費を利用して進めてきたものである。中小企業の保険需要については、上述のように銀行との関係(リレーションシップバンキング)などが明らかになりつつあるが、一方で予算の制約もあり、サンプル数が少ないなど、政策形成の基礎資料とするためには、結果の頑健性などに問題があった。 そこで、2013年度は、中小企業向けにアンケート調査を実施する予定である。具体的には、帝国データバンクなど複数社から見積もりを取り、中小企業の財務データを入手すると同時に、アンケート調査を実施することで、従来は入手することが困難であったリスクマネジメントの実施状況や保険購入金額などについて分析を進める予定である。2013年度の支出の大半が、このアンケート調査に必要な支出に充てられる予定である。 次に、研究の成果を海外の学術雑誌へ投稿する予定であることから、それに伴う支出(proof readingや投稿料など)が発生する予定である。研究代表者の所属する大学からのサポートを上回る費用については、本研究費を利用する予定である。 さらに、研究の経過を国内外の学会で報告し、コメントを得る予定である(Asia-Pacific Risk and Insurance Association, St. Johns University, New Yorkで開催予定、日本金融学会復興金融部会、日本保険学会など)。研究代表者の所属する大学から研究出張の旅費のサポートがあるが、これを上回る費用については、本研究費からの支出が発生する予定である。また、共同研究者の出張経費も発生する可能性がある。コンピューターやソフトについては、学内の研究費を利用する、フリーソフトを利用するなどして、経費を節約する予定である。
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