研究課題/領域番号 |
23730308
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
宮崎 智視 東洋大学, 経済学部, 准教授 (20410673)
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キーワード | 財政政策 / 非ケインズ効果 / 公共投資 / 金融政策 / 公民連携 |
研究概要 |
本年度は,まず,研究課題のうち,2008年9月のいわゆる「リーマンショック」に端を発する世界同時不況後に行われた,日本の裁量的財政政策の効果を計測した.それにあたり,「narrative approach」と言われる,各種の戦争や政策の変更を示すダミー変数を作成し,その経済効果を探る分析手法を用いた.具体的には,リーマンショック以降の財政政策の時期を特定するダミー変数を作成し,それが鉱工業生産指数や株価などに与える影響を考察した.同時に,過去の研究代表者の研究で用いられた1990年代の政策ダミーも用いつつ,90年代の政策との比較も試みた. また,四半期データの場合には,リーマンショック以降のサンプル期間が短いことから,VARモデルを用いた場合ラグ値を十分に取れないため,政策効果の計測が難しくなるとも考えられる.この点は,月次データを用いることで対処した.推計の結果,鉱工業生産指数と株価の双方に対して,同時不況後の財政政策は有意に負の効果を与えるとの結果が得られた.また,拡張的財政政策の実施は実質為替レートの上昇(円安)をもたらすとの結果が得られている.この結果は直感に反するものの,拡張的財政政策の実施→財政悪化への懸念→自国通貨の減価(円安),と解釈するならば,鉱工業生産指数や株価の結果とあわせ,日本の「財政破綻」への懸念が生まれていることの証左であるとも解釈されよう. また,関連研究として,地方財政と景気変動との関連についての研究や,金融政策に関する研究,および社会資本ストックとその維持管理費の将来推計を試みた.特に維持管理費の計測においては,公民連携(Public Private Partnership, PPP)についても,想定を厳密に検証することを通じ,導入効果のシミュレーションを行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
必要であるデータセットの整理,および予備検定などをクリアした上での推計などは十分にできていると考える. 今後の拡張としては,まず,民間消費などほかの項目にも対象を広げたい.特に民間消費の場合,耐久財と非耐久財との違いや,家計が流動性制約にあるのか否かなどで結果が違ってくると予想されるため,より細分化して分析を試みたい.手法についても,時変数VARモデルや,地域データを用いることでパネルVARないしはspatial VARなどの手法も用いることなど,より高度な手法を用いた研究にも取り組みたい. また,関連研究についても,査読雑誌や外部機関の雑誌などに発表されたり,国際学会での報告に採択されるなど,一定以上の成果を挙げていると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
・上記に書いたように,データの細分化および地域データを用いた分析の実施. ・それに伴い,より高度な手法を用いた分析手法の適用.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度には,今年度執行を予定していたうち20万円程度を繰り越すことになっている.これは,次年度にブリュッセルでのコンファレンスにおける招待発表の予定が入ったことと,現在使用している計量ソフトの新しいバージョンが,次年度に発売されるとの情報を得たため,それらに充当することを考えたためである. なお,繰り越した20万円を含めた次年度の科研費は,リサーチアシスタントへの謝金のほか,8月にイタリアで予定されている国際財政学会での参加・報告,および10月にブリュッセルで開催予定の国際コンファレンスでの参加・報告,およびE-views 8など新しく発売される予定の計量ソフトの購入などに充てる予定である.
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