ある銀行の預金取り付けや破綻が別の銀行の預金取り付け(引き出し)を誘発する現象を預金取り付け(引き出し)の伝染効果と呼ぶ。本研究は、預金保険が整備されておらず、度々大規模な預金取り付けに見舞われた戦前期日本のデータを用いて、預金取り付けの 伝染効果の進展過程について詳細な実証分析を行うものである。具体的には、預金取り付が他の銀行へ伝播して行くチャネルとして銀行間の系列関係を示すネットワークに着目し、昭和金融恐慌期(1927年)および昭和恐慌期(1930-1931年)において発生した大規模な預金取り付けを対象に実証的な観点から分析を行うものである。 24年度については、前年度(23年度)に作成したデータに基づき、計量分析を行なった。実証分析の結果、戦前期の約半分の銀行が役員兼任を通じて他の銀行とのネットワークを構築しており、銀行間ネットワーク持つ銀行は持たない銀行と比べ、生存確率が高いことが明らかになった。また、銀行間ネットワークの質をネットワーク先の銀行の平均的なパフォーマンスで定義し、銀行間ネットワークの構造としてネットワーク統計量を用いて分析を行なった結果、ネットワークの質は銀行の生存確率に有意な影響を与えているのに対し、ネットワークの構造については銀行の生存確率に強い影響を与えていないことが実証的に確認された。さらに、昭和金融恐慌期のデータを用いて、銀行間ネットワークを通じて預金の引き出しが伝播するかについて分析を行なった結果、預金の伝染効果について強い確証は得られなかった。さらに、銀行間ネットワークと合併相手の決定について計量的な分析を行なった結果、銀行が事前に役員兼任を通じてネットワークを構築している場合、合併相手の選択において、既にネットワークを構築している銀行と合併する確率が高いことが確認された。
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