本研究課題では大災害リスクの資産価格・消費平準化に与える影響について理論・実証的に考察してきた。理論的に明らかにした点としては以下の2点がある。[1] Saito and Suzuki (2014)では持続的な大災害リスクを前提とすると、大災害顕在化直後に株価高騰が生じることを理論的に示した。また、そのような場合、長期的な株式リスクプレミアムが負になりうることを示した。[2] Suzuki (2014)では、大災害発生直後に、投資家が客観的ではなく、主観的な期待形成をもつような状況における株式リスクプレミアムへのインプリケーションを分析した。特に、大災害発生直後に「疑念(doubt)」と呼ばれるような一人当たり実質GDP・消費成長率の分散の拡大は、株式リスクプレミアムを拡大させ、安全資産利子率を低下させる働きがあることを示した。実証的には、[3] Suzuki (2012)では、第二次大戦期のナチスドイツ占領下諸国で観察されたGDP、消費の持続的低下と株価高騰は、定量的な観点からも、整合的であることを示した。また、[4] 鈴木(2012)では、[3]で注目した第二次大戦期の「GDP、消費の持続的な低下時の株価高騰」が観察されていない日本に注目し実証分析を行った。これら一連の研究から今後の研究課題として、1.大災害の中でも金融危機発生時には資産価格暴落が観察されるが、このような資産価格の暴落は株式リスクプレミアムに対してどのような影響があるか?2.大災害の中でも特に戦時期の金融市場において形成される資産価格には将来の経済状況がどのように反映されるのか?についての研究が重要であるとの認識を得た。
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